若き日の革命家の肖像。

 気がつかなかった、まさか自分の家のドアが「どこでもドア」だったなんて。ドアをあけて外に出れば、どこへでも行けたんだ。

 気ままな旅になるはずだった。

 年上の友人とふたり、故郷アルゼンチンを離れ、目指すは南米の果て、ベネズエラ

 しかし、その約1万キロにおよぶ旅は、予想に反してさまざまな出逢いを生み、若者の人生に大きな影響を与えることになるのだった。

 若者の名はエルネスト、のちにキューバ革命の立役者となり、「チェ」と呼ばれることになるエルネスト・ラファエル・ゲバラ・デ・ラ・セルナそのひとである。

 と聞いてもぴんと来ないひとは、この映画を楽しめないかもしれない。そういうひとは、「ゲバラ」でググってください。伝説の男の、伝説の生涯がそこにある。

 簡単に書くと、ゲバラカストロとともに革命軍を形成し、ゲリラ戦の達人といわれた男である。

 かれは20代にして革命の理想に燃え、カストロを含む80名余の同志とともにキューバへ上陸する。その目標は独裁者バティスタ将軍の打倒。

 しかし、この上陸は敵側に情報が漏れており、政府軍に襲撃されたカストロたちは次々と撃ち殺され、生きのびてキューバの土を踏んだのはわずか12名だけだった。対する政府軍はその数2万を越える。

 12対2万。普通なら絶望するところだが、伝説はここから始まる。かれらは各地を転々としながらあきらめることなくゲリラ戦をくり広げ、遂に独裁政権を打倒してしまうのだ。

 そのたたかいの日々でゲバラは大きな役割を果たし、新政府が樹立されたとき、その閣僚となる。

 そしてかれは一国の最高幹部でありながら、長髪にひげ、戦闘服というスタイルを通し、その格好で日本をふくむ各国の首脳と会見するばかりか、国連で演説までする。

 来日した際は、行かせたくない日本政府の意向を無視し、お忍びで広島を訪れていたことが、つい先日あきらかになった。

 あのジョン・レノンをして、「世界でいちばんかっこいい男」といわしめた人物、それが当時のチェ・ゲバラだった。

 しかし、どんな英雄も、長く権力の座に就いていれば妥協を覚えることが普通。ゲバラは普通ではなかった。

 その過激な理想主義のためにキューバ国内でも孤立したかれは、あっさりとキューバから「失踪」、まだ革命が成し遂げられていない国を転転とすることになるのである。

 そして、若くして暗殺されて死ぬ。アルゼンチンに生まれた男が、キューバで革命を起こし、ボリビアで死んだのだ。20世紀の伝説の誕生だった。

 こういう背景を知っていると、この映画はいっそうおもしろい。

 ゲバラは行く先々で貧しい原住民と出逢い、生まれた土地を追われた共産主義者と話し合い、そしてハンセン病の患者たちと知りあう。

 そのなかで、豊かな家に生まれたエルネストは、貧しい人々への共感を育てていく。旅の初めと終わりでは、かれの顔は歴然と違っている。エルネストを演じるガルシア・ベルナルは良い演技をしている。

 欧米中心の目線から離れたところから世界を見てみたいひとにオススメ。