アニメ『ゼロの使い魔』の第2期「双月の騎士」は、どうやらいまひとつの評価に終わったよう。
この構成で行こうと考えたのは誰だ。あと、ルイズに“犬犬!”連呼させておけばツンデレだとでも思ってたんでしょうか?いろいろ勘違いにもほどがある。ちょっと、頭、冷やそうか。
う、うーん。シーン単位ではかなり良いところもあったけど、全体のシリーズ構成がいまふたつくらい。もうちょっとなんとかならんかったんだろうか・・・
シリーズ屈指の燃え展開の7巻?8巻を最後に持ってきたのは良かったと思うんですが、明らかに尺が足りていなかったような。だって後半10分で別離→再会しちゃうんですよ?
もともと1期でも原作と細かい展開が違ったため、2期もそのまま原作とは経過がかなり違ってました。ルイズの姉二人の出番増量なんかは悪くない変更だと思えましたが、本筋がアレなのでちょっと残念。
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めずらしく平和さんが腐しているところからも、その評価の程が知れようというもの。
ま、一部の感想を取り出して全体を代表させることは問題だけれど、あの最終回じゃね、とぼくも思う。敗因はひとえに原作の設定を大きくいじったところにあるんじゃないでしょうか。「妖精に助けられちまってね」じゃねえだろ。
ここらへんのことについては、ある漫画雑誌の編集者さんが書いている原作ファンが支持するラノベマンガの作り方」という記事がおもしろい。
ここでは、ライトノベルのコミカライズが失敗する理由は主に以下の4点にあると並べあげている。
(1)メディアミックスの都合で尺を決める
(2)リスペクトのない改編をする
(3)絵で作家を決める
(4)1巻の内容を考えなしにそのままマンガにする
あくまで漫画の話ではあるけれど、当然、アニメにも敷衍できる内容だと思う。
アニメ『ゼロの使い魔』の場合、主に「2」の点で失敗したといえそう。ま、ようするに原作の話を恣意的に改変したことがマイナスに作用しているんじゃないかと。
そもそもこの作品、第1期の時点で相当、原作の話をいじっている。今回の第2期は、そこからさらに改変しているわけだから、これはもう、原作と同じ展開になるほうが不思議。最終的に原作からかなり逸脱してしまったことも、必然的な結果といえるだろう。
その原作も、一見すると軽薄なライトノベルの典型みたいに見えるし、じっさいそうなんだけれど、その実、物語的にはちょっとびっくりするくらい端正に構成されている。
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ぼくも、読む前は、どうせあれだろ、ツンデレ萌え?しかとりえがないんだろ、まったく最近のライトノベルは、と偏見を抱いていたんだけれど、やっぱり読みもせずにばかにしたものじゃないね、じっさいに読んでみると、これがおもしろい。
アニメでも、ゲームでも、ドラマCDでも、それからバスタオルだの抱き枕なんかにいたるまでそうなのだが、この作品がメディアミックスされるときは、かならず「ツンデレ」という言葉がクローズアップされる。
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たとえば、Amazonの「ルイズツンデレ抱き枕カバー」の商品説明はこんな感じ。
「ゼロの使い魔」のヒロインルイズがオリジナル描き下ろし絵柄の抱き枕カバーとなって登場。表面はツンとした仁王立ルイズ、裏面は「魅惑の妖精のビスチェ」のセクシールイズというツンデレヒロインルイズの魅力が凝縮された絵柄。
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表裏に「ツン」と「デレ」のルイズがプリントされているわけですね。だから、こういうところだけ見ると、いかにも流行りに乗って受けをねらっただけの作品に見える。バスタオルの模様はあれだしな。
でも、じっさいに原作を読んでみるとその印象は綺麗に変わる。そもそもこの作品のタイトルは『ゼロの使い魔』。だから、主人公は「ゼロの魔法使い」ルイズではなく、その「使い魔」サイトなのである。
ある日突然、現代日本から戦乱の異世界へ召還されたこの少年は、「ご主人様」のルイズに犬あつかいされながらも、次第に高貴な生き方を学んでいく。ま、ばかもやることはやるんですが。
平和な日本で生まれ育ったサイトの成長、そして意識改革が、この物語のひとつの柱だ。ツンデレなんて言葉が生まれる100年も前からあったような、実に古典的な物語構造なのだ。
そのサイトの生き方に大きな影響を与えるのが、第2巻に登場する亡国の王子ウェールズ。かれは反逆者たちに国を奪われながらも、さいごまで誇り高くたたかって死んで行く。
その行動の背景にあるものは、「ノブレス・オブリージュ」の思想である。高貴なる身分に生まれたものは、その地位に伴う義務を負うということ。
その考え方は平和な民主主義国家に生まれたサイトにとって異質なものだ。そして、その後のサイトにとって、かれのヒロイックな生き方、死に方が、ひとつの規範となっていく。そういう意味で、この王子の存在は物語に非常に大きな影を投げかけている。
ところが、アニメ版第1期では、ウェールズ王子の登場は終盤に回されている。
かれが絡んでくる大規模な戦争をクライマックスに持って来たかった意図は理解出来るが、しかし、たったこれだけの改変で、物語の印象は大きく変わってくる。サイトの成長物語としての側面が大きく揺らいでくるのである。
その代わり、原作ではもっとあとのほうに入るルイズの「ツンデレ」エピソードがいくつか盛り込まれている。いや、わかるよ。ルイズのかわいさを強調して「萌える」話にしたかったのは、
でも、この改変はやはり問題が大きかったと思う。その先は展開はさらにそう。こういうことになったのも、原作の魅力をどう解釈したかに原因があると思うんだよね。
同じことが『月姫』のアニメ版と漫画版でもいえる気がする。この作品、前者は、原作ファンの評価が非常に低く、逆に後者は高い。
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同じ原作を用いていながら、どうして評価に差が出るのか? それは、その作品のファンが原作のどこに魅力を惹きつけられたのか、その点を理解しているかどうかによるのではないか。
いったいこの作品はどこがおもしろいのか? どこがおもしろがられているのか? なぜ、映像化/漫画化の企画が立ち上がるほどの人気を得たのか? その点をどこまで正確に把握しているかによって、メディアミックスの出来はおのずと変わってくる。
そもそも、ひと口に「原作に忠実に作る」といっても、じっさいにはメディアの特性の違いがあるわけで、そう杓子定規な忠実さで作れるものではない。どうしても原作の空白部分を埋めていく作業が必要になってくるはずだ。
たとえば、田中芳樹の『銀河英雄伝説』などは、漫画版とアニメ版で主人公ラインハルトの髪の長さが違う。
どちらかが原作を改変したわけではない。原作にはただ「豪奢な金髪」としか書かれていないので、長いのか短いのかはっきりとわからないのである。
したがって、「原作に忠実な作品」とは、さまざまな工夫を凝らして、「忠実なように見せている作品」であることが多い。そういう意味で、近年の成功例は、やはり神山健治監督&神山組の『精霊の守り人』だろう。
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この作品、アニメ版の展開は半分以上オリジナルである。とくに中盤はほぼオリジナルの展開が続く。そういう意味では、原作に対する忠実度は、決して高くない。
しかし、じっさいに原作を読んだぼくの目から見ても、非常に良く出来た映像化だと思える。一部の些細な瑕疵を除けば、ほとんど文句の付け所がない。
それはたぶん、作り手が、この作品のいったいどこがおもしろいのか、ファンはどの部分を評価しているのか、その核心の部分を理解した上で改変しているからである。
「忠実度」は低くても、「わかってる度」が高いのだ。メディアミックスのクオリティは、この「わかってる度」の高さで決まってくる部分が大きいのではないだろうか。
『ゼロの使い魔』をメディアミックスしたスタッフにとって、この作品の核心はルイズの「ツンデレ」だったのだろう。
たしかに、ルイズは最近のライトノベルのヒロインのなかでもよく出来たキャラクタだと思う。何か非常に男の子の庇護願望をそそるところがある。
でも、さ。それもすべて、物語のおもしろさがあってのことだ。いくらキャラクタ小説でも、萌えアニメでも、やっぱりその品質はシナリオの出来によって決まってくる部分が大きい。
ただ狭いファンを狙って快楽性を追求するだけでなく、それと同時に普遍的な物語としてのおもしさを追及していこうとする志の高さが、ああいうふうに見えて、原作にはある。その志の時点で、アニメ版は、原作者に及ばなかったのではないか。
いや、原作はおもしろいんだよ、ほんと。ヒロイン達ばかり取り沙汰されるけれど、むしろサイトとかギーシュといった男性陣のアホの子ぶりがかわいい。売れるものには、やっぱりわけがあるのだ、と思う。
少年はいつだって、愛するひとのためにたたかうものさ。
「騎士ってのは君主と… 美しき婦人のために戦うもんだ…」