NHK衛星第二で放映されている『精霊の守り人』がいよいよクライマックスに突入している。
冬を過ぎ、春を迎え、ヨゴ国の第二皇子チャグムに宿った精霊の卵は孵ろうとしていた。
ヨゴ王宮に遺された石版によると、精霊の卵が孵るのは「宴の地」と呼ばれる場所。卵を狙い異世界から襲いかかってくる「卵食い」の怪物を阻止するため、女用心棒バルサとヨゴの軍勢、そしてヨゴの「狩人」たちが集結する!
のこすはあと2話。ラルンガとバルサたちの最後のたたかいは間近だ。
さて、この作品を見ていて、ヨゴ国の者たちの身勝手とも思える行動に腹を立てたひとは少なくないだろう。
かれらはチャグムの体内に精霊の卵が宿ったことを知ると、王室の権威を守るため、かれを暗殺しようとする。
そしてひとたびその精霊がこの国に害をなすものではないと知ると、今度はバルサの手からかれを取り返し、自分たちの手で守ろうとするのである。
そのあいだ、チャグムはずっとバルサが守っているわけだが、そのことに感謝する様子でもない。
かれらにしてみれば、バルサはあくまで用心棒に過ぎない。仕事が済めば金を与えて追いはらえばいい、その程度に考えているように見える。
とくに、ヨゴの「星読博士」シュガの態度は横柄だ。かれはたまたまチャグムに出逢ったとき、不用意に情報を与えてしまい、結果的にかれを苦しめる。
「チャグムを守る」という同じ目的を抱いていながら、バルサとヨゴの人間は協力しあえず、すれ違う。なぜこんなことになってしまうのだろう。
たぶん、そこには神山健治監督の意図が込められているのだと思う。話はかれの初監督作品『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』にまでさかのぼる。
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『攻殻』は基本的に体制側の物語である。
主人公は首相直属のエリートチーム「攻殻機動隊」こと公安九課と、そのリーダー、草薙素子。「笑い男事件」と呼ばれる難事件にいどむ素子の行く手に、天才ハッカー「笑い男」の影がちらつく。
その構造はちょうど『精霊の守り人』を逆さにしているようでもある。
素子と「笑い男」は、同じように熱い正義感を抱え、同じように組織犯罪を憎んでいる。しかし、組織に所属せず、単身でかれの信じる正義を実現しようとする「笑い男」の行動は、必然的に犯罪と化す。
素子たちと「笑い男」は、同じ目的を抱いていても、決定的に立場が違うのだ。
そして、シリーズ第2弾『攻殻機動隊 S.A.C 2ndGiG』では、物語はさらに錯綜する。
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素子と九課は首相の命令を受け、武装難民を扇動するテロリスト、クゼを追いかける。
しかし、クゼがテロリストと呼ばれるのはあくまで体制側の視点の目で見た場合。差別と貧困にあえぐ難民たちにとって、かれは英雄である。
そして、同じ体制側に属する内閣情報調査庁のゴーダは、そんなクゼや素子たちを操り、事件を拡大しようとする。
素子がゴーダを暗殺してしまえばすぐに事件は解決するのだが、ルールに縛られる彼女たちにはできない。素子はゴーダを疑いながらクゼを追うという、自縄自縛の展開に追いこまれる。
そして、この事件が終わったあと、彼女は一時、公安九課を去ることになる。
ネットをさまよって個人の力で事件を解決するようになった素子が、九課に復帰する過程を描いたのが、続編『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX Solid State Society』(長い!)だ。
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この物語における素子の立場は、もはや、『STAND ALONE COMPLEX』の「笑い男」に近い。雑誌『ユリイカ』に掲載された東浩紀との対談によると、そこには、神山健二監督の体制側で物語を綴ることに対する疑問が反映されているという。
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そして、『精霊の守り人』だ。
ここにおいて、もはや主人公は最初から最後まで反体制側の人間である。実は体制側の人間と彼女とは同じ目的を抱いているのだが、しかし、わかりあえず、すれ違う。
この展開に『攻殻』を撮りながら変化してきた神山監督の思いを読み取ることは容易だろう。
もう体制側の正義をそのままに描くことは出来ない。在野の人物が、ときに体制に反逆しながら自分の志を遂げていく物語を描こう、そんな監督の思いが感じ取れる(妄想かも)。
さて、今日放送の第24話で、ようやくバルサと「狩人」たちは和解を果たした。しかし、「卵食い」はいままさにチャグムの間近に迫っている。はたしてバルサと「狩人」たちはいかにして「卵食い」に立ち向かうのか? 壮絶なクライマックスを見逃すな!
ていうか、この物語が終わってしまったら、ぼくは何を楽しみに生きていけばいいのだろう……。
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