『ハリー・ポッター』中心史観の恐怖。


 「1900年から2007年までの名作を紹介! ファンタジー今昔ものがたり」

 「族長の初夏」で紹介されていたリスト。「ハリーポッターVS守り人 日英ファンタジー対決!」という、とんでもない企画の一部なのですが、ちょっと内容に難点が。「族長の初夏」のコメント欄は字数制限がきついので、こっちに書こう。

 このリスト、株式会社トーハン企画推進部児童書担当の二宮政文さんという方の署名が付いています。でも、このひと、たぶん児童文学の専門家ではあっても、ファンタジーには詳しくないと思うんですよね。

 だって、

それを受けて以降、高校生以上が対象となる「ハイ・ファンタジー」から子供向けの「ロー・ファンタジー」まで、対象読者別に数多くの作品が世に送り出され、併せて過去の名作の再評価や映像化も活発に進んでいる。

 なんて書いているくらいですから。「ハイ・ファンタジー*1とか「ロー・ファンタジー*2という言葉は、そういう意味ではありません。

 そもそも、このリスト、一見すると、20世紀以降のファンタジー名作全般を並べているように見えるものの、じっさいには児童書しか載っていません。

 何をして児童書、児童文学と呼ぶべきか、そこは微妙なところでしょう。でも、ま、簡単にいってしまうと、出版形態が文庫のものはほとんど無視されているんですね。

 だから、J・R・R・トールキン*3やC・S・ルイス*4は載っていても、ジョージ・マクドナルド*5ロード・ダンセイニ*6は載っていない。『ペガーナの神々』*7も、『魔法使いの弟子*8も、『リリス*9も、見当たりません。

 もちろん、早川FT文庫の名作どころ、『死の王』*10や、『最後のユニコーン*11や、『妖女サイベルの呼び声』*12や、『魔法の歌』*13や、『ベルガリアード物語*14も掲載されていない。

 ヒロイック・ファンタジーのたぐいもありませんね。あと、たぶん児童書には含まれないという判断だと思うんだけれど、『ドラゴンランス*15などのRPG系の作品も除外されている。

 日本人の作品でいうと、たつみや章月神シリーズ*16荻原規子の勾玉シリーズ*17が載っている一方で、小野不由美十二国記*18の名前はありません。

 『スレイヤーズ*19とか『フォーチュン・クエスト*20などのライトノベル系の作品が見当たらないことは仕方ないかな、とも思うのですが(本当は仕方なくないけれど)、『十二国記』くらいはいいじゃんね。

 そのわりに、初めノベルズ形式で出版され、のちにハードカバーになった『西の善き魔女*21は載っているので、本を出版形態で差別しているんじゃないか、と思ってしまいます。たぶん、ノベルズのままだったら載せてもらえなかったでしょうね。

 あと、『グイン・サーガ*22とか、『アルスラーン戦記*23とか、『デルフィニア戦記*24とか、そこらへんのエンタメ系も、当然のごとくないですね。『ブレイブ・ストーリー*25や『アラビアの夜の種族』*26もない。

 それだけなら、タイトルが大袈裟なだけで、そういう趣旨のリストなのだ、と納得することも出来ます。そもそもこういうリストを作るときは、ある程度偏りが出ることは避けられないものですから。

 でも、この二宮さんは、「今や「ファンタジー=児童書」ではない」と題して、こう書いているんですよね。

ハリー・ポッターと賢者の石*27から既に7〜8年が経過し、読者層も大幅に拡大しており、書店店頭においてはファンタジー商品群が点数・内容共に今まさに充実の時を迎えている。ファンタジー=児童書売場という枠を飛び越えて、「ファンタジーコーナー」としての売場展開をすることで「目の肥えた」老若男女のファンタジー読者に対する訴求力を向上させる必要がある、と言える。

 そもそも「ファンタジー=児童書」だった時代なんて存在しないと思うわけですが、それ以前に、ファンタジーと児童書はイコールではないのだ、といっているのに、じっさいに取り上げるものが児童書ばかりというのはちょっとね。

 こういう記述を読むと、どうもファンタジーという言葉に対する認識そのものがぼくとは決定的に異なっているのではないかと考えざるをえません。

 こういうひとにとっては、ファンタジーといえば『ハリー・ポッター』のような児童書のこと、ということは自明なのかもしれません。で、最近はそれ以外のものも出て来ているみたいですね、と。いや、昔から出ていると思うんだけれど。

 そりゃ、『ハリー・ポッター』みたいなウルトラベストセラーは一冊もないんだけどさ。

時と神々の物語 (河出文庫)

時と神々の物語 (河出文庫)

予言の守護者 - ベルガリアード物語〈1〉 (ハヤカワ文庫FT)

予言の守護者 - ベルガリアード物語〈1〉 (ハヤカワ文庫FT)

ドラゴンランス(1) 廃都の黒竜

ドラゴンランス(1) 廃都の黒竜

月の影 影の海(下) (講談社文庫)

月の影 影の海(下) (講談社文庫)

ハリー・ポッターと賢者の石 (1)

ハリー・ポッターと賢者の石 (1)

*1:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F%E3%82%A4%E3%83%BB%E3%83%95%E3%82%A1%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%82%B8%E3%83%BC

*2:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%83%95%E3%82%A1%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%82%B8%E3%83%BC

*3:いわずと知れた、『指輪物語』の作者。

*4:いわずと知れた、『ナルニア国物語』の作者。

*5:ちょっと形容しがたいファンタジーを書く『リリス』の作者。

*6:アイルランドの貴族で、天才的法螺吹き。いつだったかの夏コミでこのひとの短編を邦訳して売っているひとたちを見かけたなあ。

*7:世界の運命は神様がさいころ遊びをして決めているのだ、というお話。長いあいだ入手困難だったが、最近、再販された。

*8:美しい、美しい、美しい小説。

*9:リリス萌え!

*10:入手困難ではあるが、天才タニス・リーの超絶傑作。『アラビアの夜の種族』が霞む。

*11:鏡明の名前はこの作品の訳者として永遠にのこることでしょう。

*12:早川FT文庫、記念すべき第1弾。

*13:ぼくがいままで読んだ小説で一番泣けるのはこれかもしれない。

*14:昔全部読んだんだけれど、いまとなってはヒロインのセ・ネドラ姫がツンデレでかわいかったことしか憶えていない。

*15:レイストリン萌え小説。全世界で5000万部を売り上げたそうである。

*16:この方、本職?はボーイズ・ラブ作家です。

*17:荻原さんのショタ萌え魂が爆発した傑作シリーズ。男の子がかわいすぎる。

*18:はいはい名作名作。

*19:天才魔道師リナ・インバースの冒険と破壊の旅を綴るヒット作。よくよく考えてみると、ロード・ダンセイニ→H・P・ラブクラフト神坂一という影響の連鎖があるのかもしれん。

*20:児童書として再出版されることが決まったらしい。このリストの作成が1年後なら載せてもらえたかもしれない。

*21:はるか遠い星の腐女子たちが女王の座を巡って争いあう話。本当にそうなのが恐ろしい。

*22:200巻以内で終わるかな。どうかな。

*23:ぼくが生きているうちに終わるかな。どうかな。

*24:たまたま女の子になってしまった男の子が、男の子に戻るまでの話。

*25:これはいま読んでいる最中です。さすが宮部みゆき、おもしろい。

*26:ゲームノベライズ史上最高傑作。

*27:魔法先生ネギま!』のパクリ。