『銀英伝』と『星界の紋章』は似ていない。

 創元SF文庫版銀英伝3巻の細谷正充の解説では、銀英伝以後のスペースオペラとしていくつかのタイトルが挙げられています。吉岡平宇宙一の無責任男』シリーズ、荻野目悠樹『星書』シリーズ、羅門祐人『星間興亡史』『星間軍龍伝』、森岡浩之星界』シリーズ、鷹見一幸『でたまか』シリーズなどですが、これらについて銀英伝の影響を感じるとされています(もっとも、具体性に乏しいので説得力はイマイチですが)。

 個人的には、『銀河英雄伝説』と『星界の紋章/戦旗』は似ていない、というか、対極に位置する作品だと思う。

 『銀英伝』の世界は、あくまで過去の歴史の延長線上に存在している。人類は宇宙船に乗って銀河全域に広がるほど進歩したが、そのありようは数千年前と変わっていない。

 あいかわらず政治は腐敗しているし、戦争は泥沼化しているし、人間同士ではてしなく殺しあっている。ただそのスケールが大きくなっただけのことだ。そういう意味では、『銀英伝』にはSF的な面白みはない。

 ヤン・ウェンリーはいう。

恒久平和なんて人類の歴史上なかった。だから私はそんなもの望みはしない。だが何十年かの平和で豊かな時代は存在できた。吾々が次の世代に何か遺産を託さなくてはならないとするなら、やはり平和が一番だ。そして前の世代から手渡された平和を維持するのは次の世代の責任だ。それぞれの世代が、後の世代への責任を忘れないでいれば、結果として長期間の平和が保てるだろう。忘れれば先人の遺産は食いつぶされ、人類は一から再出発する事になる。まあ、それもいいけどね」

 つまり、過去がそうだったのだから、未来もそうだろう、という理屈である。

 この思想は、『銀英伝』全編を貫いている。作者が未来社会を通して描こうとしたものは、むしろ人類の不変的な姿なのである。

 現実的には、何千年もあとにここまで社会が変わっていないことは考えづらい。しかし、その当時の社会情勢や科学技術をストレートに反映していないからこそ、『銀英伝』は普遍的な魅力を宿すことになったともいえる。

 もし、この作品が、発表当時の科学技術を最大限に取り入れていたなら、いまでは古臭くて読めないものになっていただろう。

 それに対して、『星界シリーズ』の世界には、過去の歴史に存在しない要素がある。

 遺伝子改造をほどこされた新人類アーヴである。宇宙に一大帝国を築き上げたアーヴたちは、人類宇宙に恒久平和をもたらすことを目指し、進んで戦争を開始する。

 ここには、あきらかに『銀英伝』的な、あるいはヤン・ウェンリー的なものとは違う思想がある。

 過去の人類の歴史に恒久平和が存在しなかったことは、アーヴたちも、そして作者もよく知っているだろう。しかし、そうと知ってなお、アーヴたちは真の恒久平和を目指す。

 人類にできなかったことも、アーヴにはできるかもしれない。森岡は、未来の歴史にアーヴという新しい要素を組み入れることによって、未来世界が過去と同じ道を行くとはかぎらないと示そうとしている。SF作家の発想である。

 そういうわけで、『銀英伝』と『星界の紋章/戦旗』は、似ているどころか、正反対の作品だと思うのである。どちらもそれぞれにおもしろい。

 それにしても、『星界の戦旗』の第5巻はいつになったら出るのだろうか。とにかく完結しているという点を見れば、『銀英伝』のほうが優れているかもしれない。いや、放置しているシリーズは田中さんのほうが多いのだけれど。

銀河英雄伝説 1 黎明編 (創元SF文庫)

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星界の紋章〈1〉帝国の王女 (ハヤカワ文庫JA)

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