ジュブナイルポルノは百合小説の夢を見るか?

お嬢様×お嬢様―ふたりは恋ドレイ!? (美少女文庫)

お嬢様×お嬢様―ふたりは恋ドレイ!? (美少女文庫)

「えっ。ウソッ。弘司くんとしてなかったの?」
「セックスはしたけど、キスはしてなかった」
「うん。そうね。私もおんなじ。なんでだったのかな……。弘司くんは好きなんだけど、キスする相手とは違う気がしたの」
「私も弘司が好きだよ。でも、唇は夏美にって思ってた」

 わかつきひかるの新刊。

 タイトルからもわかる通り(いや、わからないか?)主人公の少年とふたりのお嬢様のエロエロ三角関係の物語である。

 で、これがちょっとおもしろい。ふたりのヒロインが主人公のことを大好き(はぁと)なのはデフォとして、お嬢様ふたりも恋愛関係にあるのである。

 いや、もちろんそれもヘテロ男性向けポルノとしてはよくある趣向だ。男性向けのポルノとしてレズビアンものは一ジャンルを確立している。

 そういった作品では、大抵、さいごには異性愛至上主義にすべてが回収されることになる。「へっへっへ、姉ちゃんたち、やっぱり男のほうがいいだろ?」みたいな? 多くの百合オタがきらってやまない似非百合的な展開である。

 しかし、この話はそういう方向には進まない。同じひとりの男を好きになってしまったことに気づいた少女たちは、おたがいに対してかれを譲ろうとする。

「愛してる。大好きよ。夏美。友情なんかじゃないわ」
「弘司くんは小夜子にあげる。結婚なんかやめようよ」
「ひくっ、ぇえん、えぐえぐっ。け、結婚は、まだ、や、やめられるけど、ひ、弘司なんか、い、いらない、んだからっ。……わぁぁああんんっ!!」
「私もよ。ずっとこうしたいって思ってた。小夜子を失うぐらいなら、あんなモノ小夜子にあげる」
「わ、私もっ、弘司なんかいらないって、ぐすっ、しくしく……い、言ってるでしょっ!! えぐえぐっ、ひくっ。弘司も好きだけど、夏美のほうがずっとずっと大事だもんっ」

 いやいやいやいや、「あんなモノ」なのかよ(笑)。

 このあと物語的には「なんだ。二人とも弘司くんが好きなんだ。じゃあさ、弘司くん。二人のものにしちゃおうか?」というありがちな方向に進むんだけれど、ふたりの関係が至上のものであることに変わりはない。

 もちろん、けっきょくは男性主人公中心に話が進むわけだから、男性中心原理を大幅に逸脱しているとはいえないだろう。いつもの料理に振りかけられた、ちょっと変わった香辛料という程度のことかもしれない。

 でも、読者が多分に自己投影しているはずの男性主人公を「なんか」とか「あんなモノ」呼ばわりしているのはちょっとすごいよなあ。

 この作品を百合と呼ぶとたぶん反発が大きいと思うけれど、何かが変わりはじめている気はする。この業界もこんな作品が許容されるようになってきたのかと思うと、なかなか感慨深いですね。

 ジュブナイルポルノの嚆矢であるナポレオン文庫なんて、ほとんど鬼畜陵辱系ばっかりだったもん(雑破業がひとりでラブラブロリロリショタショタな小説を書いていたけれど)。

 十年一日のように見えるポルノ業界でも、やっぱり時代は変わってきているんだなあ。しみじみ。

 そのほかにも、ヒロインのからだに口紅でハートマークを書いていくところとか、エロかわいくて良かったです。

 さて、森岡正博はそのポルノ(と、オナニー)について論考した著書『感じない男』のなかで、次のように問いかけている。これに答えてみよう。

 さて、ここでひとつの問いを立ててみたい。それは、「男は射精後にポルノをどうするのか」という問いである。マスターベーションをして、射精し終わったときに、それまで見ていた写真やビデオをどうするのか、ということだ。

 もちろん、感想を書いてネットに上げるんだよ! 決まっているじゃないか!

感じない男 (ちくま新書)

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