このほろびゆく世界で。『塩の街』

塩の街

塩の街

「―――――それくらい」
 真奈は笑った。笑いながら、涙がいくらでも溢れてくる。
「それくらい、安いものでしょう? あたしたちの恋に、ただ乗りしたんだから!」

 有川浩自衛隊三部作の第一作。

 いままでは文庫のかたちで出版されていたが、たぶんその後の作品の好評を受けて、今回単行本化された。この本の存在自体が、有川浩の人気を示すものといっていいと思う。

 有川の作品には、怪獣、軍隊、恋愛という三本の柱があって、どの作品にもかならずこのなかのひとつは登場する。

 何を書いても、おそろしい怪獣が襲いかかるなか恋愛したり、きびしい軍隊生活のなか恋愛したり、何はなくてもとにかく恋愛したり、そうした内容になるのがこのひとの小説なのである。

 しかもその恋愛描写がまた甘ったるい。たぶん糖度120パーセントくらいだろう。どの作品でも主役カップルは読んでいて身もだえするくらいいちゃいちゃしている。

 その上、おとなの恋のかけひきといったものはほとんどなく、ただひたすらにストレート。ある意味、とてもおとな向けの小説とは思えないところがある。そしてこの小説にはそんな有川の個性が満ち満ちている。

 物語の舞台は、宇宙から飛来したなぞの物体により、実に人口の3分の2が塩柱と化したもうひとつの日本。

 社会秩序は崩壊し、国家そのものすら亡び去ろうとしているその世界で、自衛隊のエースパイロットだった男はひとりの少女を暴漢から助ける。それこそ、世界の命運を賭けた恋の始まりだと知らないままに。

 今回の単行本化にあたり、作者は文庫版における「怪獣」との対決をばっさり削ってしまっている。この作品の真の読みどころはそこにはなく、この地獄のような世界で生き抜く人間たちのほうにある、ということだろう。

 たしかに有川の人間描写には迫力がある。決して文章がうまい作家ではないんだけれど、多少のつたなさを吹き飛ばすような熱気がある。

 ただ、やはりデビュー作だけあって、全体として見るとその後の作品には及ばないと思う。SF的なワンダーなら『空の中』のほうが、極限状況下の人間描写なら『海の底』のほうがおもしろい。

 あとから振り返ってみれば、至るところに有川浩らしさが刻印されていることがわかるが、この作品単体ではそれほど傑出したものとはいえないだろう。やっぱり彼女の才能がブレイクするのは『空の中』からだと思う。

 なお、この単行本版には、番外編の短編が四編収録されている。なかでも「浅き夢みし」がベタなお嬢様×執事ものでなかなか楽しい。有川さん、こういう小娘キャラとおとなの男のカップリング好きだよなあ。何だかもう、そればっかり書いているような気がしてならない。

 良くも悪くも萌えを外さない作家だなあ。