昨日の話の続きだが、今日は引用から入ることにする。
もう30年近く前になるだろうか、京都大学のキャンパスを歩いていたら、学内で行われる『ゴジラ』の上映会のポスターが貼ってあった。そのコピーがあまりにもおかしかったので、今でも記憶している。
<自衛隊を踏み潰し/核の怒りに炎吐く/人民の英雄ゴジラ!>
「人民の英雄ちゃうやろ! 人民踏み潰しとるやんけ!」と、僕は(心の中で)笑ったもんである。この人たちは『ゴジラ』を見るのに、こんな大層な理屈をつけなきゃいけないのかと。
だいたい、反核を訴えた作品だから良いというのであれば、広島・長崎の悲劇を題材にした映画や、『世界大戦争』『渚にて』のような核戦争ものの映画でもいいではないか。なぜ怪獣ものでなくてはいけないのだ?
『ウルトラ』シリーズにも同じことが言える。特撮ファンはよく、「故郷は地球」や「ノンマルトの使者」や「怪獣使いと少年」といった異色作を挙げ、これらがいかに素晴らしい作品であるかを力説したがる。でも、あなたたたちが『ウルトラ』を見てるのはそんな理由? 本当にそんなテーマに魅せられたから見ているの? ゴモラやエレキングやツインテールはどうでもいいの?
違うでしょ? 怪獣が好きだから、特撮が好きだからでしょ?
なぜ素直にそう言えないのか。自分の好きなものが高尚な作品であると、どうしてそんなに思いこもうとするのか。
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さて、ぼくの言葉を使うと、ここでいう「ゴモラやエレキングやツインテール」は『ウルトラシリーズ』の「型」にあたる。
『ウルトラシリーズ』は、作品によりいろいろと趣向を凝らしはするものの、さいごにはウルトラマンが怪獣をやっつけて幕を閉じるのだから。
それに対して、「「故郷は地球」や「ノンマルトの使者」や「怪獣使いと少年」といった異色作」は、その「型」のなかで「型」を壊しかねないほどの冒険にいどんだ「型破り」の作品だ。
その悲劇的展開で有名な「故郷は地球」は、実相寺昭雄の監督作品である。こういう才能ある作り手が、『ウルトラマン』という「型」のなかで作品を作ると、このような異色作が出来上がる(こともある)わけだ。
ここで山本さんは、そういう「型破り」の作品ばかりもちあげる特撮ファンを徹底的に批判している。ようするにこう言いたいのだと思う。
「お前ら、何だかんだいっても、結局「型」が好きなんだろ? だったらかっこつけて「型破り」のものばっかり褒めるんじゃねえよ。素直に「型」が好きなんだって言え!」。
一理ある、と思う。しかし、その一方で若干の違和感は禁じえない。
山本さんの言い方では、「型」を褒めるひとは「素直」だが、「型破り」のものを褒めるひとは「自分の好きなものが高尚な作品であると思い込もうとしている」ことになる。
ま、じっさいそういうひとがいることは否定しないが、やはり一面的な見方なんじゃないかな。
ぼくはよく『らくえん』とか、『Sense Off』とか、『未来にキスを』*1とか、「型破り」のエロゲを褒める。そういう作品が好きだからだ。
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その様子を見て、こう思うひともいるかもしれない。「でも、お前も結局、ただ2次元の女の子のエロが好きなだけなんだろ?」。
その答えは、イエスでもあり、ノーである。2次元美少女キャラが好きなことは事実なんだけれど、やっぱりただ女の子がかわいく描けていれば満足出来るというものでもない。
それで満足出来るひともいるんだろうけどね。ぼくは無理。死を目前にした末期の麻薬患者みたいなものかもしれない。ありきたりの刺激には慣れすぎて、もうオーバードース(過剰投与)でしか快感を得ることが出来ないのだ。
心から「型」が好きなのに、「型通り」では満足出来ない。「型」を壊すものを求めずにはいられない――この複雑な男ごころ、わかっていただけるでしょうか。
たぶんまきがいさん(id:sikii_j)が『SWAN SONG』より『CARNIVAL』が好きだというのも、そこらへんに原因があるんじゃないかな。
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『SWAN SONG』はたまたまエロゲとして発表されはしたけれど、ほとんどエロゲの「型」とは無縁の作品である*2。それに対して、『CARNIVAL』は一応、見かけはエロゲらしく見える。
その「型」と「型破り」の奇妙な混交具合こそが、エロゲジャンキーを惹きつける。そういうことなんじゃないでしょうか。どう?