「どこか、腐ってませんか?」


 『SWAN SONG』の記事に「現実はこんなふうには行かない」的なコメントがいくつか付いていて、少しおどろいた。なるほどなあ。たしかにここだけ切り抜いてそんなふうに見えないこともない。

 たぶん、ここに至るまで鍬形がどんなことをし、ここから先、どんなふうに堕ちていくかを知っていれば、さすがに「非モテの甘い妄想」というような感想は出てきづらいと思う。

 でも、そこまで語ってしまうとさすがにネタバレが過ぎるんだよな。

 いや、じっさい、全然甘い話じゃないですから。希美が一途に鍬形を慕っていることは事実だけれど、かれはこの程度のことでは救われない。

 ひとりの女の子の想いくらいで救われるには、かれがやってしまったことはあまりにも重い。

 それでいて、かれは決して単純な悪役の類型に収まるような薄っぺらな人物でもない。鍬形は決して生まれついての悪党ではない。それどころかだれよりも正義感が強く、悪を憎み、その潔癖さゆえに暴走していくのである。

 そして、希美のほうも、決して鍬形にとって都合がいいだけの女ではない。彼女はある新興宗教団体に入信した親を憎み、恥じ、そこから逃げ出した身の上である。しかし、その先で地獄に遭遇する。

 彼女は話した。捕まって、その場で無理矢理強姦された。痛かったけど、それ以上に怖かった。工場につれていかれたら、女性の死体があった。泣いても叫んでもムダだった。とにかく恐ろしくて、記憶が錯綜して具体的なことはほとんど忘れてしまった。もう死ぬんだと思っていた。ことあるごとに体を弄ばれ、汚い言葉で罵られた。

 そして、そこを鍬形たちに助けられ、いまでは、鍬形に母親を殺してもらうことを望んでいる。いまでも、その心は深く傷ついているのだ。

 そういったいくえにもねじれた状況で出てきた言葉が「クワガタさんは、とでも汚くて、みじめだから、だいすき」なのだ。

 そして、この二人の関係は、ここでハッピーエンドに終わるわけではない。鍬形はここからさらなる不信地獄へ堕ちていき、希美は通じない想いを抱えたまま、苦しむことになる。

 二人の凄惨な運命の結末は――それは作品を購入して自分でご確認ください、といいたいところだけれど、何しろプレミアが付いて高値で取引されている作品だけに、素直に薦めづらいところが残念です。

 もしぼくの文章を読んで、少しでも、おもしろそうだな、と思うようなら、ぜひ「瀬戸口廉也」という名前を憶えていてほしい。この作品のシナリオライターである。

 もちろん、ゲームはライターひとりの才能で出来るものではないけれど、この作品の場合、読んでいて書き手の才能をびしばしと感じるんだよね。

 掛け値なしに『雫』以来10年のビジュアルノベルのなかで、最高傑作だと信じる。というか、エロゲがどうの、オタクがどうのという次元を超えて、一本の物語としてあまりに素晴らしい。

 瀬戸口シナリオの新作、『キラ☆キラ』が待ち遠しい。


http://www.over-drive.jp/kirakira/index.htm