『ファラオの墓(1)(2)』

 おお! 復刊されたのか。

 いまから30年近以上前、若き竹宮恵子が連載していた長編大河ロマンである。『風と木の詩』に比べれば知名度はひくいだろうが、その質は決してかの作品に劣るものではない。

 この作品を描きはじめた頃、竹宮には既に『風木』の構想があったのだという。

 しかし、書店へ行けばボーイズ・ラブ漫画が山と積まれている現代のことではない、少女漫画としてあまりに革新的なその内容は編集者の支持を得られず、その不支持を支持に変えるために必要な人気をもとめ、竹宮はこの作品を描きはじめた。

 物語の舞台はいまをさかのぼること4000年の昔、乱世に喘ぐ古代エジプト。平和な王国エステーリアが、隣国ウルジナに亡ぼされるところからすべては始まる。

 文化ゆたかなエステーリアであったが、戦国の世で必要とされるものは、何より力! その平和思想はウルジナの武威の前にまったく無力であった。

 亡国の王子サリオキスは、ウルジナの若き王スネフェルによって半死半生にされながら、かろうじて生きのびる。そしていくたの試練を乗り越えて砂漠の英雄となり、スネフェルの暴政に苦しむ人びとの希望の星にまで成長していくのだった。

 篠原千恵『天は赤い河のほとり』に先立つこと20年。恐るべき先駆性で竹宮は壮大なる歴史物語を紡いで行く。

 はじめ一兵ももたぬサリオキスが、その生まれもった健やかな気性と、誇り高い人柄で人望を集め、のし上がっていく物語もたしかにおもしろい。

 しかし、ひねくれた大人の目で見て興味深いのは、優等生的な王子さまのサリオキスよりも、むしろ悪役のスネフェルのほうだろう。

 つねに苛立ちと不満をかかえ、はげしい感情をもてあまして、暴力に走る若き暴君。30年後のいまの目で見ても、きゃしゃなからだに蛇をまとわりつかせ、燃えるような目で臣下を見下ろすその妖しい美少年ぶりは魅力的だ。

 そして、竹宮はかれをたんなる悪役では終わらせない。むしろかれこそはこの物語のもう一方の主人公なのである。

 陰謀うずまく宮中で育ったために、だれも信じることができないスネフェルは、よりにもよってサリオキスの妹ナイルキアと恋に落ちてしまう。

 ナイルの出自のために、その恋は悲劇に終わらざるをえない。もし、かれがエステーリアを亡ぼしていなければ、祝福されて結ばれたかもしれないふたりであったのに。

 その悲劇はスネフェルをさらなる不信地獄へと叩き落していく。かなしみに囚われた少年は真の暴君へと堕ち、ウルジナはかつてエステーリアが辿った亡びの道を辿ることになる。

 その前に立ちふさがるサリオキス! ふたりの少年はふたつの国を背負い、全エジプトの支配者ファラオの座をかけて激突する。ここに運命は同じ少女を愛したふたりの少年を殺し合わせることになったのだった。

 そしてすべてを呑み込み、悠々と歴史の大河は流れてゆく――うーん、名作である。

 ちなみに、この世界、基本的に平民の女性はトップレスです。はい。