金庸作品には本当に多彩な人物が登場します。
氷のような美青年やら、月のような美少女はもちろん、年をとっても枯れる気配のない老人たち、権力を得ても徳を積む様子のない皇帝たち、武術を窮めても性格の悪さが直らない達人たちなど、その多彩さはシェイクスピアにも劣らぬほど。
そのなかからあえてひとりを選ぶなら、悩んだ末に『秘曲笑傲江湖』の主人公、令狐冲をあげることになるでしょう。
訳者の小島瑞紀さんは、『笑傲江湖』第1巻のあとがきで、金庸作品のなかでもこの作品が最も好きだと述べ、その理由を次のように語っています。
何と言っても、主人公の令狐冲が魅力的である。胆力で言えば、『三国志』の関羽や張飛・趙雲に負けない。ユーモアのセンスは、『西遊記』の孫悟空・猪八戒以上。義気と反骨精神にかけては、『水滸伝』の好漢に劣らない。フェミニストとしては、『紅楼夢』の賈宝玉よりも男らしいやさしさを見せる。おまけに第四巻以降からは、『碧血剣』の袁承志も真っ青の、超人的な武芸をも身につけてしまう。完璧すぎてつまらないですと? それが、ちゃんと大酒呑みという欠点もあるのだ。これぞ理想の中華男児!
同感、同感。
金庸の全作品のなかでも、この令狐冲ほど友人として愉快な男はいません。
通りすがりの少女のために何のためらいもなく命を賭け、しかも何の見返りも求めない好漢のなかの好漢! この男と飲む酒はさぞ楽しいことでしょう。
秘曲 笑傲江湖〈1〉殺戮の序曲 金庸武侠小説集 (徳間文庫)
- 作者: 金庸,岡崎由美,小島瑞紀
- 出版社/メーカー: 徳間書店
- 発売日: 2007/06/01
- メディア: 文庫
- 購入: 2人 クリック: 29回
- この商品を含むブログ (47件) を見る