あなたが金庸を読むべき10の理由(その6)


 金庸作品を読んでいると、遊牧騎馬民族の格好良さがわかります。

 なまじ文化が発達しているものだからややこしいことを考える漢民族に比べて、騎馬民族の価値観は明快! 男と男の信義がすべてだったりする。

 たとえば、『射雕英雄伝』の主人公、郭靖(かくせい)は漢民族の生まれですが、事情があって草原の英雄チンギス・ハーンのもとで育てられます。

 チンギスは異民族の郭靖を息子のようにいつくしみ、育てるのです。いやあ、器が大きいね。南方の腐敗した王族たちと比べると、その風格は抜きん出ている。

 しかし、それならだれもが皆、騎馬民族のようであれば良いのかといえば、そうでもない。やっぱりかられのやらかすことはとんでもなく残虐非道だったりするわけです。

 「屠城」という言葉があます。ひとつの都市を皆殺しにすることを意味する単語です。

 郭靖たちが生きた12世紀、チンギスひきいるモンゴル軍は、愛馬の背に乗り地の涯まで駆け抜け、行く先々で屠城をくり返して血まみれの伝説を築き上げていくのです。

 今日ではモンゴル世界帝国の歴史的先駆性は再評価されているようだけれど、そんなもの、家族もろとも皆殺しにされる側から見れば、何の意味もないでしょうね。

 はたして遊牧を選び、殺戮と略奪をくり返すことが正しいのか? 定住を選び、文明のなか腐敗していくことが正しいのか? 『射雕英雄伝』一編を通し、金庸はそう問いかけているように思えます。

射雕英雄伝―金庸武侠小説集 (1) (徳間文庫)

射雕英雄伝―金庸武侠小説集 (1) (徳間文庫)