『碧血剣』は明末清初の動乱期の物語です。
明末清初、つまり、明が滅亡し、北方の騎馬民族女真族がその土地を征服して清を打ち立てた頃のこと。
西暦にすると17世紀。日本は江戸時代で、一応平和だったわけですが、そのころ大陸は大変なことになっていました。
ま、同時代の人間が苦労する時代ほど、あとから見ればおもしろいわけで、『碧血剣』も血沸き肉踊る雄大な冒険小説に仕上がっています。
主人公は愛国の英雄袁崇煥の遺児、袁承志。袁崇煥は北方で孤軍、女真族に敵し、明の国境を守り抜いた実在の英雄ですが、女真の計略に踊らされた暗愚な皇帝により処刑されてしまいます。
袁承志は父の志を受け継ぎ、侵略者から国を守るためにたたかうことになるわけです。
さて、ここでひとつの問題が生じます。どう考えても、味方の将軍を殺してしまうような皇帝より、少数にもかかわらず勇躍、敵地に乗り込んでくる侵略者たちのほうが偉大であるわけです。
本当に異民族が悪で、漢民族が正義といえるのか? 『碧血剣』は金庸の第二作ですが、この時点で既にそういう深刻な問いが生まれていることがわかります。
この問いはのちに『射雕英雄伝』、『天龍八部』といった作品に受け継がれ、さらに掘り下げられていくことになります。
ここらへんの壮大さは、ちょっと日本人の想像を絶するものがありますね。まあ、中国にもこんな作家は何人もいはしないようですが。
- 作者: 金庸,岡崎由美,小島早依
- 出版社/メーカー: 徳間書店
- 発売日: 2001/09
- メディア: 文庫
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