あなたが金庸を読むべき10の理由(その4)


 さて、漢民族と異民族の相克、などと書けば、正義の漢民族が侵略者たる異民族を追い払ってめでたしめでたし、という展開を想像する方もいらっしゃるかもしれません。

 ところがねえ、じっさいに読んでみるとどうもそれほど単純じゃないんですよね。

 ま、たしかに漢民族の主人公と異民族の侵略者との対決という一面はあります。しかし、どうも無条件に漢民族が正しいともいいきれない。

 漢民族にも悪党はいるし、異民族にも英雄はいる。ときには侵略者のほうが寛大であることもあるし、同胞に裏切られることもある。ここらへんは非常にフェアな描写であるといっていいでしょう。

 それに加えて、後期の作品に進むにしたがって、さまざまな正義やイデオロギーは相対化され、何が正しいのかわからなくなっていきます。

 金庸の作品が中国一国を超えて、さまざまな国で愛されている秘密はここらへんにありそうです。

 かれの作品が中国国内で何度となく映像化されていることは以前に述べたとおりですが、実は韓国やシンガポールなどでも独自に製作されたドラマが放映されているようです(出来は悲惨だという噂も聞くけれど)。

 つまり、かれの小説は中国のみならずアジア全域で愛読されているわけです(フランス語訳なんかもあるらしい)。日本で普及が遅れていることが意外なくらい。

 もちろん、日本人が読んでもおもしろい。はじめに手に取るなら、『碧血剣』か『秘曲笑傲江湖』あたりがお奨めかなあ。

碧血剣〈1〉復讐の金蛇剣 (徳間文庫)

碧血剣〈1〉復讐の金蛇剣 (徳間文庫)