あなたが金庸を読むべき10の理由(その3)


 さて、ここまでおもしろいおもしろいと持ち上げてきたわけですが、具体的にどこがどうおもしろいのか。ここから先はそのことに触れましょう。

 その前に金庸作品の時代背景について語らなければなりません。

 およそ日本の作家が取り上げる中国の歴史といえば、いちじるしく古代に偏っています。伝説の古代帝国から春秋戦国、始皇帝の天下統一、そして項羽と劉邦の一騎打ち、まずそこらへんが主な守備範囲でしょう。ひと言でいえば『史記』の時代ですね。

 それからもちろん『三国志』の時代も人気があります。どういうわけか、『三国志』そのものは有名でも、その前の後漢の物語は知られていないようですが、とにかく有名。

 ところが、金庸にしろ、ほかの武侠作家にしろ、こういった古代の物語はほとんど取り上げていないようです。

 あまりにも古すぎて実感がわかないし、庶民社会が出来上がっていないので、市井のヒーローは描きづらいんらしいんですね。

 ま、『史記』の時代といえば、日本でいえば卑弥呼よりさらに古いわけですから、当然といえば当然かもしれません。

 したがって、金庸のほぼすべての作品の舞台は、宋(南宋)からあとの時代になります。

 このことは金庸の作品を語るにあたって、きわめて大きな意味をもちます。なぜなら、この南宋からあと、漢民族の国は何度となく異民族に侵略され、亡ぼされることになるからです。

 漢民族と異民族の相克は、金庸作品の最大のテーマといえます。

史記〈1〉覇者の条件 (徳間文庫)

史記〈1〉覇者の条件 (徳間文庫)