さて、ここまでおもしろいおもしろいと持ち上げてきたわけですが、具体的にどこがどうおもしろいのか。ここから先はそのことに触れましょう。
その前に金庸作品の時代背景について語らなければなりません。
およそ日本の作家が取り上げる中国の歴史といえば、いちじるしく古代に偏っています。伝説の古代帝国から春秋戦国、始皇帝の天下統一、そして項羽と劉邦の一騎打ち、まずそこらへんが主な守備範囲でしょう。ひと言でいえば『史記』の時代ですね。
それからもちろん『三国志』の時代も人気があります。どういうわけか、『三国志』そのものは有名でも、その前の後漢の物語は知られていないようですが、とにかく有名。
ところが、金庸にしろ、ほかの武侠作家にしろ、こういった古代の物語はほとんど取り上げていないようです。
あまりにも古すぎて実感がわかないし、庶民社会が出来上がっていないので、市井のヒーローは描きづらいんらしいんですね。
ま、『史記』の時代といえば、日本でいえば卑弥呼よりさらに古いわけですから、当然といえば当然かもしれません。
したがって、金庸のほぼすべての作品の舞台は、宋(南宋)からあとの時代になります。
このことは金庸の作品を語るにあたって、きわめて大きな意味をもちます。なぜなら、この南宋からあと、漢民族の国は何度となく異民族に侵略され、亡ぼされることになるからです。
- 作者: 司馬遷,市川宏,杉本達夫
- 出版社/メーカー: 徳間書店
- 発売日: 2005/11
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