『DIVE!!』――アスリート小説の傑作


 森絵都ジュブナイル小説『DIVE!!』が、今月、「少年サンデー」で漫画化されるらしい。

 飛込みでオリンピックをめざす少年群像を綴ったスポーツ小説の傑作である。

 ジュブナイルスポーツ小説といえば、映画化もされたあさのあつこ『バッテリー』が有名と思う。しかし、この作品のおもしろさも決して『バッテリー』に劣らない。

 ていうか、ぼくはこっちのほうが好き。好き嫌いでいうなら、ここ数年で読んだ小説のなかでもいちばん好きかも。

 一応、児童文学の体裁で出版された本ではあるが、決して子供騙しの内容ではない。むしろ青春の夢を忘れてしまった大人にこそ読んでほしい作品だ。

 ひょっとしたら、この小説はあなたの胸でくすぶっている情熱ののこり火をふたたび燃え上がらせてしまうかもしれない。それくらい、熱く、鋭く、おもしろい小説である。

 もっとも、だからといって暑苦しい内容を想像してもらっても困る。むしろその正反対。青白い炎のような『バッテリー』に比べると、『DIVE!!』の読み心地は清水のようにさわやか。

 森絵都の文体は何ともいえず涼やかで、品があり、ユーモラス。どんなにシリアスな展開をえがいても、どこか飄々として捉えどころがない。

 何より印象的なキャラクタたちがいい。ここ数年でいちばんキャラ萌えしたのは、ラノベでもエロゲでもなく、この小説かも。

 「ダイヤモンドの瞳」と呼ばれる驚異的な動体視力をもつ主人公、知季はおとなしく気弱な普通の少年。しかし、ある出来事をきっかけに、かれのなかでアスリートの本能が目覚める。

 常識をこえた高い目標を掲げ、その達成のためにどんな犠牲も惜しまない壮絶な生き物。一瞬でもいい、あらゆる枠を超えた最高の瞬間を目指して、少年は技を磨きつづける。わずか1秒強の演技にすべてを賭け、かれは恐るべき速度で成長していく。

 ダイヤモンドの瞳に映るのは遥かに遠い五輪の夢。いまやかれにはその夢を実現する力がある。

 一方、そんな知季のまえに最大のライバルとして立ちふさがるのが要一である。

 幼い頃から天才として知られ、オリンピックに出るためにすべてを犠牲にして生きてきた年上の少年。知季もとびきり魅力的なキャラだが、ぼくは要一くんのほうが好きかも。

 だれにでも好かれ、愛され、いつもひとの輪のなかにいる知季に比べて、要一にはひとを寄せつけないところがある。

 王者の孤独。だれにも理解できない絶望的な孤独の果てにじぶんを追いつめ、積み上げたプライドだけを友に、かれはひとり飛込み台の上に立つ。

 めざすは10メートルの距離の下、青くきらめくあの水面。ただひとたびの挑戦のために、何百、何千、何万とくり返し磨いたその技が、いま、少年を戦士に変える。

 かれが終盤で見せるその誇り高い選択は、読者を感動させずにはおかないことだろう。

 はたして五輪の切符を手にするのは知季か、要一か? オリンピック選考会をまえに物語は盛り上がっていく!

 え? 飛沫? そういえば、そんな奴もいたような気が、しないでもないですね。

DIVE!! 上 (角川文庫)

DIVE!! 上 (角川文庫)

DIVE!! 下 (角川文庫)

DIVE!! 下 (角川文庫)