少年が脱皮する瞬間――『Landreaall(10)』

Landreaall 10 (IDコミックス ZERO-SUMコミックス)

Landreaall 10 (IDコミックス ZERO-SUMコミックス)

「偉そうに怒ったってダメ!! 私が怖いのは相手が正しい時だけだもの!! お兄が言ってた アカデミーはお兄を利用してリドを帰国させたんだって お兄はカンカンよ すっ・ごく・怒ってたわ 寮監だって知ってるんでしょう そんな人がフィルに失礼なこと言わないで!!」

 発売直後に購入しているんですが、今日まで感想が遅れてしまいました。なまじ好きな作品だけに、気合が空回りしてしまうんですね。

 どうも、最近、読者を意識しすぎて気楽な感想を書きづらくなっている気がする。もう少しいいかげんに書くことを憶えないともたないかもしれないなあ。

 さて、そういうわけで、『Landreaall』待望の第10巻。あいかわらず素晴らしい出来です。

 今回、DXたちは友人の竜胆を救うべく、かれの母国ウルファネアへ向かいます。いつもいっしょの妹のイオンは今回ばかりは別行動。アカデミーにのこり天馬のお守りです。

 たぶん、この先、彼女のほうにも何か事件が起こると思うけれど、とりあえずいまのところはDXを中心に物語は進んでいきます。

 はたしてDXは無事ウルファネアに入国できるのか? そして無事に竜胆を助けることができるのか? アカデミーにおける平穏な日々は終焉を告げ、いよいよ新しい冒険が始まります。

 いやあ、おもしろい。いつもながら長編作品としての構成が絶妙ですね。ただのコメディアイテムだと思われていたいくつかの要素が、瞬く間にシリアスな物語の構成要素と化していく展開は圧巻。おがきちかの物語作家としての天稟を感じさせます。

 いや、ほんと、こういう物語作家っていったいどうやって話の筋を考えているんだろうなあ。謎。

 話の中軸がDXにあることは先述した通りですが、その一方で、ウルファネアで権力闘争に巻き込まれた竜胆、そしてアカデミーで少しずつ成長していくフィルなど、脇役たちも実に魅力的なドラマを演じてくれます。

 ほんの少ししか出番がないただの端役に至るまで、いちいちキャラが立っていて、「生きている」ことがこの作品の魅力。

 かれの名誉を守るために激怒したイオンを、フィルが呆然と、信じられないものでも見るように見つめる場面は、この巻でも最高の名場面といっていいでしょう。

 この国でも屈指の貴族の姫君でありながら、自分のために頬を火照らせて寮監に抗議するイオン。そんな彼女を見て、かれのなかで何かが変わっていく。長い、長い屈従の日々のなかで、凍りついた劣等感が溶けていく。

 そしてあらたにたしかな決意が生まれる。少年が大人になる瞬間。そのいわば脱皮の場面を、おがきちかは実にみごとに捉えています。

 この作品はもっと売れるべきだと思うなあ。おもしろいけれど、この内容なら売れなくても仕方ない、と思わせられる作品もたしかにあります。

 しかし、『Landreaall』はもっと有名になってしかるべき作品だと思う。さまざまな要素が絡み合い、また気を抜いて読んでいると伏線を読み逃がしてしまう可能性もあるため、そう気楽に読める漫画ではないかもしれません。

 しかし、話の骨子そのものはきわめてわかりやすいし、何より味読に耐える精緻さがある。とにかく細部の細部に至るまで良く考えられていて、手抜きがない。いまいちばんお勧めの一作ですね。