- 作者: 山本弘
- 出版社/メーカー: 楽工社
- 発売日: 2007/03/01
- メディア: 単行本
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勇馬 「でも、納得できませんね。げんに超能力で行方不明者が次々に見つかるのは、どう説明するんですか? テレビ朝日の『TVのチカラ』で、行方不明者が超能力で見つかったことがよくあったじゃないですか」
パパ 「いや、ひとつも」
勇馬 「はあ?」
これは良い本ですね。
と学会会長である山本弘さんが、と学会を離れて、ひとり、超能力番組のたのしみ方を指南した本です。
おそらく子供が読むことを想定しているのでしょう、とても読みやすく、わかりやすく、しかも説得力抜群。想定年齢が低いせいか、最近の山本作品に時おり見られる皮肉のとげもほとんど見当たらず、万人に薦められる一冊となっています。
たぶん子供の頃に一冊読んでおけば、その後一生超能力番組を鵜呑みにすることはなくなるでしょう。そういう意味ではじつに霊験あらたか、もしあなたのお宅にお子さんがいらっしゃるなら、買い与えて損はない本だと思います。
めずらしくベタ褒めしてしまいましたが、いや、じっさいおもしろい本だと思うんですよ。
この本の特徴は、山本さんが直接語るのではなく、作中人物を作って問答仕立てに仕上げているところです。
主要登場人物は3人、超能力番組オタクの「パパ」と、その娘の「夕帆ちゃん」、そしてその友達の「勇馬くん」。何かとだまされやすい勇馬くんがテレビ番組の話をもってくると、パパがそのトリックをあばきだしてくれるという筋立て。
この「パパ」はあきらかに山本さん自身が投影されたキャラクタなんだけれど、キャラクタデザインがあまり美化されていないところは好感がもてます(笑)。
似非超能力番組の欺瞞をあばきたてる名探偵にしては、妙にみすぼらしい印象なんだよなあ。いや、本編ではほとんど関係ないんですけれど。
しかし、たとえ外見が仕事に疲れたリーマン風でも、その推理力はじつにあざやか。みごと『テレビのチカラ!』やら『FBI超能力捜査官』やらの裏側をあばいてくれます。
それにしても、ここであばかれている超能力トリックの数かずは噴飯もの。たとえば、冒頭に出てくるある超能力者は「雲を消してみせる」超能力のもち主。
その種明かしはとてもかんたん。風の強い日に少し待っていれば、雲は散り散りになって消えていくものだというのです。念を送るも送らないも関係なし。本当にただそれだけのことなんですね。
この本であばかれているほかのトリックも大同小異のレベル。こんな初歩的なトリックでだまされてしまうひとが続出するのは、「まさかテレビがそんなすぐにばれるようなうそをつくはずはない」という心理があるからでしょう。
しかし、じっさいにテレビはうそをつきます。それも頻繁に。堂々と。その事実は例の『あるある』騒動で広く知れわたりました。
とはいえ、もちろん、あの番組だけが特別であるはずはない。ぼくたちはテレビ画面に映し出されるすべての番組を注意深く監視する必要があるのです。この本はその監視のお供によく役に立つと思います。
往年の名著『RPGなんてこわくない!』を思わせる痛快な一冊。似非超能力番組退治のお札として、一家に一冊常備しておくと大変効果があると思いますよ。