サン・ジョルディの日に。


 今日はサン・ジョルディの日でしたね。クリスマスやバレンタイン・デーと異なり、まるで定着することなく終わった本の記念日です。

 いまでこそただのエロゲオタとして知られるid:kaienさんですが、その昔はひとかどの活字中毒として鳴らしたこともあったとか(まあ、ノベルゲームだって実質、活字媒体だけれど)。

 それだけに、ひとに本を薦めることのむずかしさはよくわかっているようです。いかなる名作、名著といえども、そのひとの好みに合わなければそれまで。名作だから読め!って、『薔薇の名前』とか薦めらても困るよね。いや、名作なんだろうけれど。名作なんだろうけどさ。

 そこまで承知した上で、もしひとに本をあげるとすれば、どの本を選ぶか? いくつか候補は思いつくけれど、いまの気分だとこの本かなあ。

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 財産目当てで老富豪と結婚し、まんまとひと遺産相続したグレース(マダム)と、執事として彼女に仕えるグラハム(ミスター)の日常を綴った連作短篇。

 トラブルメーカーのグレースがさわぎを起こし、律儀なグラハムが解決する羽目になるという筋書きは決まっているものの、毎回趣向に富んでいて飽きさせない。

 遠藤淑子の最高傑作とはいわないまでも、最もバランスの取れた作品だと思う。ものすごい名作というわけでもないかもしれないが、優しく、暖かく、読むひとを選ばない佳作だ。個人的にも大好きな作品で、くり返し、くり返し、読んでいる。

 もっとも、連作なので、多少の出来不出来はある。グラハムの悲しい少年時代があきらかになる第6話も素晴らしいが、何とも心和むのは第8話。

 いつものごとく退屈していたグレースが、屋敷のなかで一枚のメモを見つけたところから物語は始まる。その内容が隠し財産のありかだと思い込んだグレースは、さっそく探索を始める。

 ところが、グラハムが近所に住む老婦人の卵を高値で買い取ったことがきっかけで、かれと喧嘩してしまう。

 「ミセスドノバンは年金で慎ましく暮らす隣人なんですよ」。「もしニワトリが死んで持ってくる卵がなくなってもこれは天国で生んだ卵の分ってお金渡すつもり? あなたの善意は押しつけがましいと思うわ」。

 売り言葉に買い言葉で、ふたりは険悪な雰囲気に。しかし、話がすすむと、メモが指し示す「隠し財産」の場所は、ほかならぬその老婦人の家の井戸であることがあきらかになる。

 グレースは井戸を調べるために策略を弄するのだが、事態は思わぬ方向にすすんでいく。

 この話の勘所は、なんといっても結末にある。グレースはグラハムの善意を非難し、正当な値段で卵を買うべきだと主張する。

 しかし、結局、彼女も口で言うほどドライにはなれない。「宝捜し」の果てに待ち受ける思いもかけない展開を前に、グレースの理屈は崩れていく。

 ひとによっては甘すぎる結末だと思うかもしれない。でも、ぼくはこの話を読んで、グレースという人物をとても好きになった。いい話です。おすすめ。