「リンかけ」と「テニプリ」の落差。

 テニプリを「スタンダードな魅力を持つバトル漫画」という視点から評した感想をネットの表面では見た覚えがないので、そうした言説状況をDisるべくワクチンを投下する用意を整えんとす。

 なるほど。ぼくは「テニプリ」は途中で投げ出してしまったのでよくわからないけれど、ネットで感想を読むかぎりでは、むしろ王道のバトル漫画に思えますね。

テニスの王子様 1 (ジャンプコミックス)

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 まあ、じっさいは違うのかもしれないけれど、それならそれで、「少年ジャンプ」過去の名作、『リングにかけろ』や『キャプテン翼』とどこが違うのかということは明快に語られるべきだと思う。

 「テニプリ」が「不条理ギャグ漫画」で、「キャプ翼」がそうでないとすれば、その差はどこにあるのか?

キャプテン翼 1 (集英社文庫―コミック版)

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 ぼくの場合、『キャプテン翼』にかんしてはだいぶ記憶があやふやなんですが、『リングにかけろ』はやはり少年漫画を代表する大傑作だと思うんですよね。

 たしかに、ここには一般的な意味でのドラマツルギーはない。しかし、その一般的な作劇論を無視したストーリーテリングは、いま読んでもやはり強烈に印象にのこる。

 剣崎がプロになってからの話は本当に素晴らしくて、車田正美という天才肌の娯楽作家のキャリアのなかでも、最高傑作と呼ぶにふさわしい熱気があると思う。

 よくジャンプバトル漫画の象徴的作品として名が挙がる『ドラゴンボール』は、じっさいにはかけ引きの要素がつよく、後年の『HUNTER×HUNTER』に繋がるようなゲーム性が感じ取れます。

ドラゴンボール 完全版 (1)   ジャンプコミックス

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HUNTER X HUNTER 1 (ジャンプコミックス)

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 それに対して、『リンかけ』は本当にひたすら殴り合いが続くだけ。それが良い。もっとも、この作品もはじめは70年代日本の生活感ただよう、『あしたのジョー』的といってもいいようなボクシング漫画として始まったのです。

 しかし、やはり車田漫画の本領はその後のはてしないインフレーションにある。はじめはジャブだのストレートだの、一応はボクシングの範疇に入る技で行われていた試合は、やがてなぞのスーパーブローの応酬へと姿を変え、さいごにはもはやどうやって殴っているのかわからないような幻想的な試合に成り果てる。

 その表現の極北はジーザス・クライストの必殺技「ネオ・バイブル」にあるでしょう。リングの上で創生期の七日間が再現されるという、ほとんど物理法則を超越した技です。いくら荒唐無稽とはいっても、並みの漫画家ではなかなかここまでは行かない。

 そしてそのジーザス・クライスト戦を経たあとの最終決戦は感動的です。最終巻、宿敵高嶺竜児の新スーパーブローによって場外へ吹き飛ばされた剣崎が、日の丸に包まれながら立ち上がってくる場面は、ふるえるほど格好良い。

 たしかに「リンかけ」はボクシング漫画を逸脱してギャグ漫画じみていたかもしれない。しかし、ここに至ってギャグ漫画をも逸脱して何かべつのものにまで進化している。のちの『聖闘士星矢』にはこの凄絶さはありません。

 さすがの車田正美にしても、二度とは達しえない高みだったのでしょう。