『キャリアこぎつねきんのもり(5)』

キャリア こぎつね きんのもり 5 (クイーンズコミックス)

キャリア こぎつね きんのもり 5 (クイーンズコミックス)

 親しい 気のおけない男友達が結婚する――って こういう気持ちなんだろうな もう気軽に誘えなくなってしまう 頼み事もしづらくなってしまう 自分のものじゃないのに 奪われていくような淋しさ 裏切られたような悔しさ

 ひとの目に映る景色は、そのひとの内面によって色取られている。

 同じ景色を見ても、同じものが見えるとはかぎらないし、あるひとにとっては輝くような光景が、べつのひとにとっては退屈に見えることもある。

 そして、たったひとつの出逢いが、すべての色彩をぬり変えてしまうことも。

 某高級ホテルで辣腕を振るう條辺早歩は、ある日、童子(わらし)と呼ばれる童女と出逢う。

 母親を亡くし、身寄りが少ない童子は、弁護士に連れられて親戚のもとを転々としているのだという。

 彼女の身柄を引き受けたものは、約2億円におよぶ遺産を管理することができる。しかし、そのためには、童子が常に身に付けている狐のお面を脱ぐよう仕向けなければならない。

 早歩は遺産には興味がなかったが、短期間の約束で渋々彼女の世話を引き受けることになる。

 それが始まり。そのときは想像もしなかった。まさか、童子との生活が、彼女の価値観を根底から揺るがすことになろうとは。

 初めは人形のように身動きひとつしなかった童子は、早歩と暮らすうち、こどもらしい感情を取り戻していく。表情を変えることのない狐のお面が、いつしか彼女の心をあらわして見える奇跡。

 時に抱きしめ、時に叱りつけ、時に取っ組み合って喧嘩するさわがしい生活のなかで、早歩の心にわき水のように愛情があふれてくる。

 家族を得て初めて、彼女は自分の孤独を知る。ひとの目から見ればままごとのような家族ごっこだったかもしれない。しかし、いつのまにか互いにとって互いがかけがえのない存在になっていた。

 そして、いま、童子の過去と、彼女の母親をめぐる悲劇的な物語が明かされ、早歩と童子に、わかれの時が来る――。

 石井まゆみ最新作『キャリアこぎつねきんのもり』、いま、完結。

 ひとはひとりでは生きていけない、とよく言われる。しかし、それはひとりきりでは生活を支え切れないというだけのこと。

 たとえそうだとしても、可能なかぎり他人を頼らず、自分の力で生きていきたいと考えるひとは少なくないだろう。また、望むならそうやって生きていける時代でもある。

 早歩もそういう人間のひとりだった。肩肘をはり、仕事に熱中し、生活を管理し、自分だけの世界を保つ。孤独な、しかし完成した生活。

 しかし、そんな早歩の完璧な世界は、童子の登場によって粉々に打ち砕かれる。

 我がままな童子。自分勝手な童子。優しく、思いやり深い童子。そんな童子によって早歩は変えられていく。そして、春に、夏に、秋に、冬に、めぐり来る季節のひとつひとつに、この世界の美しさを感じるようになる。

 彼女は決して「母性に目ざめた」わけではない。ただ、少しだけ変わった。ひとだけが、ひとを変えることができる。そう、だれかを愛するとは、そのひとに変えられたいと望むことではないだろうか。

 このような出逢いを通して、ぼくらの暮らしは進んでいく。今日よりも、もっとしあわせな明日をめざして。