『秘密(3)』

秘密 3―トップ・シークレット (ジェッツコミックス)

秘密 3―トップ・シークレット (ジェッツコミックス)

 解凍され黄泉の国から甦った5年前の事実―――― どんなに隠しても逃れられない 湖底に沈めた死体は浮き上がり 埋めた死体にはうじがたかる 必ず必ず 「秘密」は形を変えて姿を表す 時に 残酷に

 秘密。

 だれもが心に秘密を抱えて生きている。

 他愛ない悪事の証拠から、遠い日の恋の思い出まで、その内容も、うしろめたさも多岐にわたるだろう。

 そして、時にはまさに何よりも重い秘密もある。命を賭けてでも、すべてを捨ててでも、守らなければならない秘密――トップ・シークレット。

 しかし、もし死者の脳を解析することで、そんな絶対の秘密まであばき立てることができるようになったとしたら?

 清水玲子の最新作『秘密』は、そんな魔法の技術が現実となった時代を舞台とするサスペンス連作である。

 いまから時を経ること半世紀の未来、死者の脳を最大限に活性化して過去の情報を取り出す「MRIスキャナー」と呼ばれる装置が開発され、犯罪捜査に利用されていた。

 しかし、その性質上、故人の人権を大幅に侵犯するため、その機能が利用される例はごく一部の兇悪事件にかぎられてもいた。

 そんな状況下、「MRIスキャナー」の利用権をもつ化学警察研究部法医第九研究室、通称「第九」の天才捜査官薪と、その配下の青木は、禁断の技術を武器に、さまざまな猟奇犯罪に立ち向かっていく。時に、犯罪の暗黒面に呑みこまれそうになりながら。

 今回、薪たちの前に立ちふさがる事件は、死体の片手片足の骨を粉々に砕いた上、全身の皮をきれいに剥がし、そして首を落とすという、前代未聞の怪事件。

 その酸鼻な死体に犯人からのメッセージを読み取った薪は、早速、スキャナーによる捜査を開始する。

 しかし、死者の脳をさぐると、被害者を含む数名の若者が、5年前にある殺人事件を目撃していたことがあきらかになる。

 いったいかれらは何故、その事件を秘匿していたのか? 暗い過去に封じ込められた「秘密」が、いま、あばかれる!

 いままでの巻では、短篇や中篇程度の長さの物語が描かれてきたが、今回は一巻丸ごと費やしてひとつの物語を追いかけている。

 捜査側と被害者側、そして犯人の視点を行き来しながら綴られる物語には、サスペンス映画さながらの緊迫感が満ちている。

 むしろ、原作不足のハリウッドに企画書にして持ち込んだら高値が付くのではないか、とすら思われるほど。

 作中のトリックそのものは初歩的で、恐らく大半の読者は途中で気づくことと思う。

 しかし、作品の眼目はそこにはない。被害者と加害者、双方が抱えた「秘密」、そのおぞましさ、忌まわしさ、文字通り命懸けで守らなければならない重さにもかかわらず、死者の亡霊さながら、過去の闇から浮かび上がってくる不気味さこそが、この作品で作者が描こうとしたものだろう。

 さまざまな手法を用いて登場人物を追いつめていくその展開は、あいかわらず実に容赦がない。

 全身の皮を剥がされた死体などほんの序の口、物語が進むほどに、あまりにも悲劇的な真実があきらかになってくる。

 読後感は重く、鋭い痛みに満ちている。清水玲子一流の世界である。

 それにしても、清水さん、一児の母になっても、少しも非情さが衰えませんね。その悪魔のような酷薄さに、震えながらも惹きつけられる。
 さて、ここから先は、実にどうでもいい余談なので、「続きを読む」記法を使っておきます。ネタバレでも何でもありません。読まなくても全く差し障りはありません。

 最近翻訳された海外の児童文学に、パトリック・ケイヴ『シャープ・ノース 少女ミラ、漂流する15歳』という作品があります。

 翻訳を担当したのは大岩真弓と、ライトノベル界でも有名な金原瑞人秋山瑞人の名前はこのひとから採ったものらしい)で、解説を書いているのもやはり金原瑞人

 その解説のなかで、金原は、クローン・テーマに言及し、次のように書いています。 

 もちろん、日本でもその手のものはたくさんある。清水玲子の『輝夜姫』は権力者や有力者のドナーとして造られるクローンをあつかった傑作SFマンガで、コミック版はすでに二十七巻を数えてますますおもしろくなってきた。

 ん? 「ますますおもしろくなってきた」といっても、『輝夜姫』は全27巻で完結しているんですが。

 そこで終わっている作品に対して、「ますますおもしろくなってきた」なんて言わないよね?

 まあ、うっかり筆が滑っただけなのかもしれないけれど、ひょっとして金原先生、最新刊を読まずに書いているんじゃ……。

 どんなに隠しても逃れられない。湖底に沈めた死体は浮き上がり、埋めた死体にはうじがたかる。必ず必ず、「秘密」は形を変えて姿を表す。時に、残酷に。って、おいおい。

 まあ、ほんとに、どうでもいいことなんですけれどね。

シャープ・ノース ~少女ミラ、漂流する15歳~

シャープ・ノース ~少女ミラ、漂流する15歳~

輝夜姫 (27) (花とゆめCOMICS)

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