『スティール・ボール・ラン(11)』

「『LESOON4』………敬意を払え!」

 スティール・ボール・ラン

 命懸けの大陸横断レースはなおも続く。

 灼熱の砂漠を越え、峻険な山岳を越え、昼を越え、夜を越え、はるか幾千キロの彼方のゴールをめざして、挑戦者たちは走りつづける。

 そして、その参加者のなかには、合衆国大統領そのひとにやとわれた暗殺者もまたひそんでいたのだった。

 そのひとり、音を自在に操りあらゆるものを切り裂くなぞのスタンド使いが、いま、ジョニィたちに襲い掛かる!

 ジョニィの爪弾をはじき返し、ジャイロの鉄球さえ切り裂くこの最強の敵を前に、二人の若者はかつてない危機へと追いつめられていく。

 しかし、この絶体絶命の状況下でなお、ジャイロはジョニィに向けて悠然と言い放つのだった。「鉄球」の奥義を教えてやる、レッスン4だ、敬意を払え、と。

 ますますホットに燃え上がり、いよいよクールに冴えわたる、『スティール・ボール・ラン』待望の第11巻!

 それにしても、と、この巻を読んだ者の多くは思ったのではないだろうか。

 荒木飛呂彦の才能は衰えることを知らないのだろうか、と。『ジョジョの奇妙な冒険』の時代から数えれば、この物語は実に91冊目である。

 どれほど才能ゆたかな書き手であっても、アイディアの泉が枯れ果てていておかしくない頃だ。

 しかし、現実にここにある物語の瑞々しさはどうだろう? 荒木の着想は、衰えるどころかここに来てさらに進化しているようだ。

 ジャイロがジョニィに向けて語る鉄球回転術の奥義、その、ある種、疑似科学的胡ないかがわしさが素晴らしい。

 どう考えても無理、絶対に出切る筈がないのだが、その「できるわけない!」という常識の声すらも巧みに物語に組み込まれている。

 かつて、主人公の「必殺技」を、こんなふうに表現した作家がいただろうか? 絶対にいないし、ひょっとしたら、これからも出てこないかもしれない。

 また、ジョニィたちを強襲するスタンド使いの正体にもおどろかされる。まさか、あのかれが金のために大統領にやとわれていようとは!

 この意外な設定と、意外さを演出する熟練の技によって、「音のスタンド使い」との対決のエピソードは、『ジョジョの奇妙な冒険』全編のなかでも屈指の出来に仕上がっている。

 『ジョジョ』第一部は勧善懲悪の物語だった。正義のジョナサンと悪のディオ! しかし、『スティール・ボール・ラン』は、もっと深い人間的葛藤に満ちている。これから、この物語が何処へ進んでいくのか、まさに目が離せない。

 不世出の作家――本当の意味でそういえる書き手はめったにいるものではない。しかし、荒木飛呂彦にこそ、その桂冠はふさわしい。

 その絵柄において、その手法において、その台詞回しにおいて、異端をきわめながら、それでもなお王道を往く孤高の漫画家。

 いったいかれはこのレースをどんな展開へ導こうとしているのか?

 そして、死闘と宿敵とを乗り越え、スティール・ボール・ランはなおも続く。はるか何千キロの彼方の、まだ見ぬ勝利をめざして。