- 作者: 関田涙
- 出版社/メーカー: 原書房
- 発売日: 2007/02/01
- メディア: 単行本
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とにかく家に戻ったら即ワープロに向かい、書き始めてみることにしよう。ストーリーや登場人物、そしてトリックなどは、キーを叩いているうちに自然と浮かびあがってくるはずだ。
それにしても、こんな感覚を味わうのは、生まれて初めてのことだった。
これは間違いなく俺の最高傑作になる。
その建物は「檻」と呼ばれていた。
死刑が廃止された日本で復活した仇討ち制度のための建築物である。
その内部には七人の男女が集められ、それぞれ、「殺人者」、「被害者」、「共謀者」、「傍観者」、「邪魔者」、「監視者」、そして「探偵」の役割を割り振られていた。
つまり、この七人のなかに、仇を討つ者と討たれる者が混じっているわけである。しかし、だれがどの役割を割り振られているのか、一部の者を除いて知らない。
そんな状況下で、あたりまえのように不可能殺人が発生する。いったいだれがどのようにして殺したのか? 奇妙な「檻」のなかで、推理劇が始まる。
というのが、この小説中の作中作『檻のなかの七匹の獣』のあらすじである。
その小説を書いているのは、廃業目前のハードボイルド作家。世話になっている出版社から本格ミステリを要求されたかれは、あっさりハードボイルドを捨ててしまったのだ。
この『檻のなかの七匹の獣』、あらすじだけ読んでいるとなかなかおもしろそうなのだが、そこは三文作家の書く代物、いろいろな意味でめちゃくちゃである。
書いている本人だけは斬新な作品を物しているつもりなのだが、リアリティに欠けることはなはだしい。
はやりのゲーム小説ではあるものの、『バトル・ロワイアル』のような迫真性や、『DEATH NOTE』のようなサスペンスを期待すると肩透かしを食う。
ところが、さいごまで読みすすめると、すべてがくるりと反転する。帯にある「驚天の結末」とはこれを指すのだろう。
本格推理の作家にとって、作中作という代物はある意味、諸刃の刃である。
うまく使いこなせば、『匣の中の失楽』のような歴史的傑作が出来上がる。現実が虚構と化し、虚構が現実と入れ替わり、何が真実なのかわからなくなっていくスリルを演出できる。
しかし、それはあくまで成功した場合の話。下手な使い方をすれば、清涼院流水の『コズミック』のような、「作中作なんだから何をやってもいいだろう」というものになりかねない。
まあ、あれはあれでおもしろかったけれど、しょっちゅうあんな真似をやらかされてはたまらない。
それでは、この作品の場合はどうなのかというと、うーん、微妙なところだなあ。
たしかに結末ではちょっとおどろく逆転劇が待ち受けているのだが、そこに至るまでの展開が悪乗りが過ぎないか。
いわゆるユーモアミステリに分類される作品だろうから、現実的でないとあげつらうことは阿保らしいが、それにしても悪趣味な話である。
こういうものが好きな読者もいることは理解できるけれど、ぼくはちょっとついていけなかったなあ。だって、出てくる奴出てくる奴、みんないやな性格なんだもん。
たしかに、これはこれで、ある種伝統的なやり方ではあるだろう。でも、ぼくはふつうにおもしろい作品のほうがいいや。その「毒」を笑い飛ばせるひとにはお奨めできるかも。
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