ストレイト・ストーリー [DVD]

ストレイト・ストーリー [DVD]

 タイトルの「ストレイト」とは、主人公の名前である。

 その人物、アルヴィン・ストレイトは、腰をわずらい、杖なしでは歩くこともできない老人。

 ある日、10年前に仲たがいした兄が倒れたことを聞いたかれは、会いに行かなければならないと決意する。

 しかし、兄が住んでいる土地はじつに500キロの彼方。そして目の悪いアルヴィンは車に乗ることもできない。いったいどのようにしてたどり着けばいいのか?

 かれが選んだ方法は芝刈り機を使うことだった。最高時速わずか8キロのこの機械にトレーラーを引かせ、旅に出ようというのだ。

 このあまりに無茶な計画に周囲は当然反対するのだが……。

 というわけで、ちょっと変わったロードムービー。ネットがつながらないときに暇つぶしに見てみた。

 目も足も悪い老人が、自分ひとりの力で数百キロの道のりを踏破しようとする、そして、そのあいだにさまざまなひとと出逢っていく、という筋立てそのものはシンプルながら、力強い構成で見せる。

 監督は何と「あの」デイヴィッド・リンチ。しかし、ここには暴力も狂気もシュールレアリズムも見当たらない。

 正しくは、それは舞台の裏に上品に隠されていて、表には出てこない。いまにも噴出しようとする暴力の圧力が、画面の裏にていねいに隠されていて、それが映画全体に緊張感を生んでいる。

 アルヴィン老人が酒場で戦争の思い出を語る場面は印象的である。それは何十年も前のことなのに、いまだに血の記憶はかれを苦しめている。

 かれは戦争の被害者であると同時に加害者でもある。そのことがいまも罪悪感でかれの心をさいなむ。

 また、しょっちゅう鹿をはねてしまう女性の話もおもしろい。彼女は鹿が大好きなのに、自動車でその道を通っていると必ず鹿をはねてしまう。

 いろいろな隠喩として読み取ることができるだろうが、つまり、人間が生きているということの不可避的な暴力性がここにある。

 さまざまな困難を越えて、アルヴィン老人は兄のもとにたどり着く。以前はひとも羨むほど仲が良かったのに、つまらない理由で喧嘩別れし、以来、10年ものあいだ口をきくこともなかった兄。

 しかし、かれは弟が乗ってきた芝刈り機を見ると、ひと目でその苦労を察し、すべてを許すのだ。

 たあいない人情話といえばそれまでだが、アルヴィンが苦労してここまでたどり着く行程を目にしているだけに、このハッピーエンドは胸に迫る。

 途中、アルヴィンを車に乗せてくれるというひともあらわれるのだが、かれはそれを断る。自分の力だけで行かなければ意味がないと言い張るのだ。

 500キロといえば、おおよそ新潟から東京までの距離に相当するだろう。新幹線に乗ればわずか2時間の距離である。

 その道のりを往くのに、かれは1ヶ月以上もの時間をかける。また、それだけの時間をかけたからこそ、兄もかれを赦す気になったのだろう。

 地味だが、印象的な小品だ。