「いい話」なら、それこそ小説でも映画でも漫画でも巷に溢れている。そこにエロゲが加わってもまあ構わんとは思うのだけど、今まで俺がやった「泣ける」という評価がくだっている作品は、正直ストーリやら設定やらもろもろ含めて考えると、傑作といわれる小説より一段低い。それが、ただ単にその程度のレベルなのか、そのメディアの形式によるのかはよく分からないけれど。
「泣けるエロゲ」を周りに薦めてくるやつの話。
紙媒体の小説なんぞ読んだこともなく、エロゲしかやってないようなアレなヲタが、
ちょっと「泣ける」っていう要素を入れたエロゲをやった途端に目覚めて、
これはいい、これはいいと勧めまくってくるってだけの話じゃないのかな。
急に高尚さを求めだした的な。
「泣けるエロゲ」はストーリーがいいとは言うが、
文学や映画をたしなんでいる方面からの評判は聞いたことがない。
(あったらゼヒ紹介してください、読んでみます)
まぁ一昔前は僕もそんな事を言っていた時代がありましたが、泣きゲーとは言え脱衣してぎしぎしアンアンしてるんだから、抜きの要素が介在しているのは間違いないんですよね。それを泣けるから、別に抜かないから、などと見苦しい弁明をするから気持ち悪いんだろう。
で、オタが泣きゲー万歳三唱するのはいくつか理由がありそう。
1つはオタク文化というマイノリティの地位向上。これは以前の僕にも言えることだけど、蔑視されてきた文化が実はこんなにも素晴らしいものなんだぞ、と天上界の人達を見返してやりたい気持ちが、さして良作と言えるわけでもない作品を持ち上げようとする。作品の良し悪しを判断する能力があるにも関わらず(僕にあるのかどうかは知らんけど)、その地位向上へ向けるエネルギーが盲目的なオタクを作り上げてしまうのかも。
また1つは、エロゲ以外の作品には触れていない人が多い(かもしれない)こと。
憶測で釣り発言するのもそろそろ卒業したいんだけど、もしかしたら統計を調べたらあらびっくり、文章力はエロゲで学びましたという人がたくさんいるかもわからん。エロゲ内の文章からは学ぶものがたくさんあるけれど、他のものに触れないうちにエロゲに触れたら、そりゃ崇めたくもなるよなぁという話。
ラノベに触れてからラノベ以外の作品を読まない人とか。ラノベは面白くて僕も好きだけど、そこだけを見ていてはラノベの本当の良さも見えてこないような気もする。
ここらへんの話を踏まえて、ひさしぶりにエロゲの話でもしましょうか。「ひとはなぜエロゲをするのか」というお題。
これが「ひとはなぜアダルトビデオを見るのか」だったら簡単ですよね。まあ、ようするにエロが見たいわけです。
AVのエロシーンを飛ばして、それ以外のところだけ見ている奴なんて、いないとは言わないまでも、めったにいるものではないでしょう。
ところが、これがエロゲになると、そういう人間が実在する。何を隠そう、このぼくがそうです。エロゲのエロシーンなんて、ほとんどスキップしてしまうもん。
こういうことを書くと、「それはごまかしだ」と言うひとも出てくるかもしれません。
本当はエロを見たいだけのくせに、かっこ悪いから物語がどうこうと言い出しているんだろ、と。
まあ、たしかにそういう側面はある。もし同じゲームの18禁版と、全年齢版が並べて売られていたとしたら、たぶん18禁版を買うと思う。
ただ、だったらエロだけあればいいのかと言うと、やっぱりそれも違う。純粋にポルノとして消費するには、エロゲは高すぎる。定価で買えば、1本10000円近くしますからね。
それじゃ、いったいエロゲに何を求めているのか。ぼくの場合、それははエロでも、萌えでも、泣きでもありません。まして「高尚さ」とか「文学性」などではありえない。
はっきり言葉にすることはむずかしいのだけれど、あえて言うなら「ユニークさ」ということになるでしょうか。
その作品だけの個性、独自性、ほかのどのソフトにも似ていない要素、そういうものをこそ求めたい。
ただ単に総合的によくできた作品を遊びたいなら、『ドラクエ』とか『ゼルダ』とか『シレン』の新作を遊んでいればいいわけです。そうすれば、かなり高い確率で「当たり」を引き当てることができる。
それに比べると、一般的なエロゲははるかにチープです。そもそも予算そのものが桁違いなのだから、どうしようもない。
でも、低予算だからこそ冒険的な企画が通る可能性がある。そういうソフトは、一般的に評価されるかどうかはともかく、ぼく好みのカルトな傑作になるかもしれません。
このあいだ遊んだ『らくえん』はまさにそういうソフトでした。いろいろと難点はあるんだけれど、もう大好きで仕方ない。
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もちろん平均点を出せばこれより高いソフトはいくらでもあるだろうけれど、とにかく個性が突出している。
こういう代物を見つけ出してしまうと、一気にジャンル全体に対する愛着が増します。もちろん、そんなソフトがそうざらにあるわけじゃないんだけれど、現実にあることはある。
これはいつかチャットで話したことだけれど、エロゲはソフトを買うまでがゲームなんです。膨大な数の外れのなかからあたりを探し出す作業にゲーム性がある(笑)。
だから、そこから先にゲーム性がなくても問題ない。というか、ぼくがエロゲをやるもうひとつの理由は、「ゲーム性うざい」ってことだったりするわけですけど。
ぼくは78年生まれで、バリバリのゲーム世代です。ファミコンからスーパーファミコン、メガドラ、PCエンジン、サターン、プレイステーション、ドリームキャストにプレステ2、とゲーム機が進歩するのと並行して成長してきた。
だから、ゲームそのものには思い入れがある。ただ、いつのまにかあまりゲームを楽しいと思わなくなってきたんですね。ゲーム機がいくら進化しても、ゲーム自体は思ったほど進歩しなかったから。
いや、もちろんどんどんすごくなって行っているんだけれど、そこに革命的な何かはなかった。ただより画像が綺麗になり、より容量が膨大になっていっただけでした。
それで、いったんゲームから離れたときに見つけたのが、エロゲだったわけです。
いまエロゲで主流になっているいわゆるノベルゲームには、はっきりいって予算削減の産物という一面があるように思います。
ゲームという手段で物語を語るために最低限必要なものだけをのこし、ほかを切り詰めたスタイル。しかし、逆にいえば、物語を語るだけならそれだけで十分ということでもある。
そして、現実にそこからコンシューマーではありえない、危険にアンバランスな傑作が生まれている。
いや、コンシューマーにしても、『ドラクエ』の最初の作品はどこかのビルの2階でほんのわずかなスタッフで作っていたって話じゃないですか。でも、いまではそれはむずかしい。
『月姫』を作る前の奈須きのこはどこかのゲーム会社に所属していたそうですが、あれほどの才能をもちながら、世に名を知られることはなかった。
というか、もうゲーム製作はそういう個人の才幹でどうにかなるものじゃなくなっているんでしょう。
でも、エロゲなら。エロゲなら個人の天才でどうにかできる可能性がある。じっさいに『月姫』はその可能性を証明してみせた。
あの作品の欠点を並べ立てることはたやすいと思います。ビジュアルも音楽もチープだし、シナリオは文章力に欠ける。ひとりよがりのセンスも散見される。
でも、一方ではそういうことすべてを吹き飛ばすパワーがあった。ぼくとしては、そういうものが見たいわけです。
未完成でもいい。欠点だらけでもいい。でも、ゲームというメディアの可能性を見せてほしい。心からそう思う。
大原まり子の「銀河ネットワークで歌を歌ったクジラ」という短篇のなかに、こんな台詞が出てきます。
「いいか、よくおぼえとけ。人生の九十八パーセントはクズだよ。だけどがっかりするんじゃない。残りがちゃんとあるんだからね、坊や」
人生のところを「エロゲ」に変えると、ぼくの思いそのままになる(まあ、「クズ」とは思わないけれど)。
いくら期待はずれが多くても、問題じゃない。おもしろいものだけ見つけ出して遊べばいいわけだから。
本当に問題なのはその「2パーセント」が確実に存在するということ。それさえわかっていれば、いくら外れを引いてもジャンル全体に絶望したりはしない。
ジャンルすべてをかがやかせる、黄金の2パーセント。ぼくにとっては、前出の『らくえん』や『月姫』がそうだったし、いまは亡きOtherwiseの『Sense Off』や『未来にキスを』、それにニトロプラスのデビュー作『Phantom of Infelno』がやはりそうでした。
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ただ、そういった「2パーセント」が好きなら、のこりの「98パーセント」はどうでもいいのかといえば、そうでもない。ふつうの萌えゲーとかもそれなりに好きですから。
これはSF小説とかホラー映画とか ある特定のジャンルを好きなひとは皆そうなのではないかと思う。
スペシャルな2パーセントとそうでない98パーセント、どちらが欠けてもそのジャンルに深く思い入れることはできなくなるでしょう。
そういうものです。