- 作者: 小前亮
- 出版社/メーカー: ベストセラーズ
- 発売日: 2006/12/06
- メディア: 新書
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われらが隣国、中国の歴史は実に3000年に及ぶ。
群雄が割拠した春秋戦国時代を除き、秦の始皇帝以降に話を限っても、2000年をはるかに凌ぐ年月が存在する。
良くも悪くも、日本などとはスケールが違う国である。
本書は、その悠久の歳月から、28人の皇帝を選び出して語った一冊。秦の始皇帝から清の康熙帝まで、名君暴君取り混ぜて語り倒している。
ただ、「知られざる素顔の中国皇帝」というタイトルは少し大袈裟かもしれない。
この本を読んでも、皇帝たちの「知られざる素顔」についてはよくわからない。それほど斬新な解釈をほどこしているわけではないのである。
なにしろ、初期の皇帝にかんしては、数千年にわたって研究が続けられているわけだから、いまさらそれほど斬新な解釈が飛び出してくるわけもない。
もちろん、だからおもしろくないということにはならないだろう。本書の特色は、雲の上の皇帝たちを、あくまで身近な視点で描いたところにある。たとえばこんな風に。
英雄としては、とか、民にとっては、などという視点で皇帝を評価するのもいいが、もう少し自分に引き寄せて考えるのはどうか。
上司にするなら誰がいいか、暮らすなら誰の治世がいいか、はたまた息子にもつには?
康熙帝は確かに名君だが、まじめすぎて息がつまりそうだ。言動に気をつけなければならないから、ストレスで胃が痛くなる部下が多いにちがいない。クビライなども、部下に対する要求は厳しいだろう。反面、実力とやる気さえあれば、大きな仕事を任せてくれる。
居心地が良さそうなのは、宋の趙匡胤の下だろう。お酒が飲めれば、万事うまくいきそうだ。後漢の光武帝も部下思いだが、ジョークや名言をちりばめた挨拶に辟易するかもしれない。唐の季世民もいい。部下に求めることが明確なので、仕事がやりやすいだろう。提言や進言を喜ぶ人でもある。
生前は神のように崇められていた皇帝たちも、死んでしまえばただの人。何をいわれても反論できない。一天万乗の雲上人の悪口を肴に安酒でも喰らう。庶民にとってこれ以上の娯楽があるだろうか。
ここで名前を挙げられている28人の皇帝のなかでも、南朝宋の武帝、劉裕あたりは特におもしろい。
貧しい下級官吏の息子でありながら、実力によって皇帝の椅子を勝ち取った一代の英雄。
ろくに字も書けない無学な男だったが、それを引け目に感じることはなく、字を大きく書くと巧く見えるとアドバイスされると、紙からはみ出すほど大きく書いて、自分で笑っていたという。
また、没後、宮殿を建て替えるためにかれの部屋に入ったものたちは意外なものを見出して目を見張ったという。
皇帝の居室だというのに、一面に土塗りの壁があり、粗末な農具が吊るしてあったのだ。皇帝にまで成り上がったあとにも、貧しかった頃を忘れないようにしていたのか。
男のなかの男。近くにいたら迷惑かもしれないが、遠くから見ているぶんには、実におもしろい人物というほかない。
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