『化物語』

化物語(上) (講談社BOX)

化物語(上) (講談社BOX)

化物語(下) (講談社BOX)

化物語(下) (講談社BOX)

「……センジョーガハラサマ」
「片仮名の発音はいただけないわ。ちゃんと言いなさい」
「戦場ヶ原ちゃん」
 目を突かれた。
「失明するだろうが!」
「失言するからよ」
「何だその等価交換は!?」
「銅四十グラム、亜鉛二十五グラム、ニッケル十五グラム、照れ隠し五グラムに悪意九十七キロで、私の暴言は錬成されているわ」
「ほとんど悪意じゃねえかよ!」
「ちなみに照れ隠しというのは嘘よ」
「一番抜けちゃいけない要素が抜けちゃった!」
「うるさいわねえ。いい加減にしないとあなたのニックネームを生理痛にするわよ」
「投身モンのイジメだ!」
「何よ。文字通り生理現象なのだから、恥ずかしいことではないわ」
「悪意がある場合は別だろう!」

「あなたを虐待してあげる」
「え……?」
「違った。招待だったわね」
「………………」
「いえ、やっぱり虐待だったかしら……」
「招待で完璧に正解だ! それ以外にはない! 自分で自分の間違いを正せるなんてなかなかできることじゃない、さすがは戦場ヶ原さん!」

「それにしても、見蕩れるの蕩れるって、すごい言葉よね。知ってる? 草冠に湯って書くのよ。私の中では、草冠に明るいの、萌えのさらに一段階上を行く、次世代を担うセンシティブな言葉として、期待が集まっているわ。メイド蕩れー、とか、猫耳蕩れー、とか、そんなこと言っちゃったりして」

「そう、もういっそ、こう思ってくれてもいいのよ。愛情に飢えている、ちょっと優しくされたら誰にでも靡いちゃう、惚れっぽいメンヘル処女に、不幸にも目をつけられてしまった、と」

「雑魚という名の草はなくとも、雑魚という名の魚はいる……」
「雑魚という名の魚もいねえよ!」
「雑草という名の草はなくとも、雑草と呼ばれる人間はいる……」
「呼ばれる人間がいるってことは呼ぶ人間がいるってことだぞ!」
「しかし、まあ、今度の実力テストで阿良々木くんに合格点を取らせることに成功すれば、私は人間として更にもう一歩、先へと進むことができるんだと思うと、やる気が出るわ」
「僕の成績のことを自分の試練みたいに捉えてんじゃねえ……それに、お前が人間として先へと進むべきところは、もっと別にあるだろうよ」
「うるさいわね。絞め殺したわよ」
「過去形!? 僕は既に死んでいるのか!?」

「……お前、絶対その内、人を殺すぞ」
「そのときは、阿良々木くんにするわ。初めての相手は、阿良々木くんにする。阿良々木くん以外は、選ばない。約束するわ」
「そんな物騒なことをいい台詞みたいに言ってんじゃねえよ! 僕、お前のことは好きだけど、殺されてもいいとまでは思わないよ!」
「殺したいくらいに愛されて、愛する人に殺される。最高の死に方じゃないの」
「そんな歪んだ愛情は嫌だ!」

「では阿良々木くん」
 戦場ヶ原は感情のこもらない眼で言った。
「勉強を続けましょうか。知っている? 有名な、トーマス・エジソンの言葉。天才は九十九パーセントの努力と一パーセントの才能である、って。さすが天才、いいこと言うわよね。でもきっとエジソンは、一パーセントの方が大事だと思っていたに違いないのでしょうね。人間と猿を分ける遺伝子の違いって、そのくらいだって言うわよね?」

 西尾維新の伝奇小説。

 ある日、阿良々木暦めがけて降ってきた少女、戦場ヶ原ひたぎには、体重と呼べるものが全くなかった。その事件を皮切りに、阿良々木がありとあらゆる「怪異」と対決することになる。ま、西尾版『百鬼夜行』というところだろうか。

 上記の引用を見てもらえばわかる通り、異様にテンポの良い会話が見所。テンポが売物のライトノベル作家はほかにもいるが、これほど「ライト」な会話が書けるひとはほかにいないだろう。

 毒舌と勘違いと褒め殺しと言葉遊びを挟みながら続くマシンガントークは圧倒的。終始、くすくす笑いながら読み終えた。いや、間違い。どぎゃどぎゃ笑いながら読み終えた。

 会話の切れだけなら『戯言シリーズ』をもはるかに上回る。やっぱり同じようなものを書いても日日日辺りとは役者が違うなあ。参りました。

 また、西尾維新お得意の奇妙なキャラクタたちも、いつもながらに印象的。お節介でお人好しの吸血少年が、ツンデレ美少女、迷子の小学生、生まれながらの委員長、天才バスケ少女などと遭遇していく、と書くと普通の萌え新伝綺に見えなくもないんだけれど、実物はその要約から3光年ほどかけ離れている。

 天才やら超人やらが頻出する『戯言シリーズ』に比べれば一応は普通の人間の範疇に入るはずだが、全然普通じゃないよな、こいつら。全員が全員あらしのようにボケまくるなか、ひとりでツッコミを担当する阿良々木くんは大変である。。

 ちなみに今回のトークはエロネタが多い。『戯言シリーズ』の感覚で読むとなかなか新鮮である。いーちゃんはこういうのあんまり乗ってこないもんな。照れ屋さん?

 さて、これらの超個性的なヒロインたちのなかでも、白眉は何といっても戦場ヶ原ひたぎに尽きる。『戯言シリーズ』では(主人公のいーちゃんを除くと)出てこなかったツンデレキャラだけれど、ものすごくひねられている。

 ていうか、なんでただのツンデレがこんなふうになってしまうんだよ! 並のツンデレをただの一回転とすると、コバチ辺りに相当する強烈さ。攻略超困難のE難度ツンデレである。

 基本的に情は深いのだが、愛情を毒舌でしか表現できないという困った子。きっと、お気に入りのぬいぐるみとかをいじりまくって壊してしまうタイプだぜ。

 こんな子とつきあっていられる阿良々木くんはほんとに偉い。普通の男の子だったら3日で心がずたずたになっている。

 ただ、今回はいつもの殺し愛はなしなので、安心して読めることもたしか。うっかり気を許して萌えた3ページ後にそのキャラが死んでいるということはない。

 『戯言シリーズ』をも超えていく超高濃度萌え小説である。この手のアニメ風キャラクター小説がお好きな方には超オススメである。