最後の一球

最後の一球

 島田荘司というのも、なかなかふしぎな作家である。

 泥臭い人情話を書くかと思えば、華麗なトリックを弄しもする。壮大な歴史絵巻を謳い上げるかと思いきや、市井の一市民の生活にあたたかいまなざしを注ぎもする。

 ひとりの作家のなかに、何人もの人格がひそんでいて、つねに作劇の主導権を争っているかのようだ。

 当然のこと、作品はいくつもの方向性にひき裂かれ、分裂しかけることになる。ところが、かれはそれを超絶的な筆力と構成力で強引にまとめあげてしまう。

 おそらく、ひとつの方向性に絞ってうまくまとめあげれば、もっとスマートな作品が出来上がるだろう。トリックに徹するとか、あるいはいっそ推理要素は削るとか。

 しかし、この豪腕こそが島田ミステリの魅力でもある。とにかくそのストーリーテリングは並ではない。今度ばかりはもう駄目かと思っても、ふしぎと物語が終わる頃には帳尻が合っている。

 本書は島田荘司のそんなふしぎな個性が存分に活かされた長篇。御手洗潔ものの一作だが、御手洗の出番は前半四分の一ほどで、そのあとはある人物の手記が続く。

 タイトルからわかる通り、この部分はほとんど野球小説である。高校から社会人、そしてプロへ、地味ながら必死な人生を歩んできた男が投げる最後の一球。

 それはすべての弱者を守るためのトリックと化して読者の心を鋭く射抜く。こういう作品をさらっと書ける辺り、やはり巨匠は巨匠だなあ。