変身願望 メタモルフォーゼ (SFセレクション 6)

変身願望 メタモルフォーゼ (SFセレクション 6)

そうしよう
ささやかではあるけれど
このかわいらしいおっぱいに磨きをかけて
誰よりもかわいくて魅力的な
立派な女の子になろう 

 退屈だ。

 なにが退屈かといって、自分であることが退屈だ。

 ぼくたちはだれも皆、この先、何十年か生きて、そして必ず死んで行く。そのあいだ、自分以外のものになれないとは、なんと退屈なことだろう。

 世の中には、苦心惨憺してオリンピックの金メダリストになるひともいる。むずかしい学問に精通して天才と呼ばれるひともいる。

 しかし、そういった人びとをあまりうらやましいとは思わない。なぜなら、その努力家も、天才も、けっきょくは一度きりの人生しか送れないとわかっているからだ。

 オリンピックをめざせば、宇宙飛行士にはなれないだろう。宇宙飛行士を望めば、数学者にはなれない。男と生まれれば女のことはわからないし、女として生きる以上、男の人生は永遠のなぞに終わる。

 それではいやなのだ。自分以外のものになりたい。自分以外の人生を知りたい! たぶん、子供の頃はそんな風に考えるひとも少なくないに違いない。

 しかし、そんなメタモルフォーゼ願望の囚人たちも、歳を経るにつれて、やがて自分が自分であることを受け入れていく。地に足をつけて、唯一無二の自分自身として生きていく。それが成熟である。

 ただ、世の中にはあきらめの悪い人間もいて、そんなひとは小説を読む。もっと重度の場合には読むのでは書くこともある。それもただの小説ではなく、SF小説を書くのである。

 本書『変身願望 −メタモルフォーゼ−』は、そんな作家たちが書いた変身SFを集めたアンソロジー

 収録作品5作のうち4作までは小説だが、志村貴子の漫画「ぼくは、おんなのこ」があたりまえのような顔で紛れ込んでいるあたりがいまふうか。

ぼくは、おんなのこ (Beam comix)

ぼくは、おんなのこ (Beam comix)

 ある日突然全人類の性別が逆転してしまった世界の話で、さすがにいまほど絵が巧くないけれど、このひとむかしからこういう話をかいていたんだな、ということはわかる。

 性転換SFそのものはもちろんむかしからある。たとえばジョン・ヴァーリイは〈八世界〉シリーズで、服を着替えるのと同じくらい簡単に性別を変えることができる未来をえがいた。

 しかし、それも肉体の話で、精神的な性認識についてはあまり触れられてこなかったようだ。この漫画でも、そこら辺はごまかされている気がする。

 まだ未読だけれど、イーガンの『万物理論』はその問題に踏み込んでいるようだ。さすがというべきだろう。

万物理論 (創元SF文庫)

万物理論 (創元SF文庫)

 クリス・ネビルの「宇宙少女アン」は、タイトルこそ古めかしいが、リリカルでストレートな良作。地球で育った宇宙少女の孤独はティプトリーの作品を思わせるが、しかし、その結末はティプトリーとは逆である。ラストセンテンスは蛇足かな。

 菅浩江「嘘つきな人魚」は〈博物館惑星〉シリーズの一篇。清冽な感動に出逢える作品。ぼくはこのひとのジュブナイル作品が好きでしたね。『メルサスの少年』は名作だったなあ。

永遠の森  博物館惑星 (ハヤカワ文庫JA)

永遠の森 博物館惑星 (ハヤカワ文庫JA)

 ほか二編はショートショートだったり既読だったり。

 というわけで、幅広いSFが楽しめる子供向けの一冊。こういう本の存在は貴重だよなあ。