攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX Solid State Society [DVD]

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「Solid Stateには近づくな」

 茅葺内閣を震撼させた難民武装蜂起事件より2年後、

 草薙素子は公安九課を去り、九課は新人20名を増強してトグサを中心に再編されていた。しかし、バトーは素子のいない九課に居心地の悪さをかんじていたのだった。

 そんななか、新生九課によって追いつめられた立てこもり犯が「傀儡廻が来る」というなぞめいたことばをのこして自殺する。そしてその事件をきっかけにいくつもの難事件がリンクして行く。

 バトーは事件の裏に見え隠れする超ウィザード級ハッカー傀儡廻」の正体は素子なのではないかと疑うのだが――。なぞがなぞを呼ぶ『攻殻機動隊』最新作。

 今回は105分の長篇、いろいろと事情があって劇場公開にまでは至らなかったようだが、長さも、構成も、映像の品質も完全に劇場作品そのものである。高度にネット化した近未来社会が非常にいままでにない鮮明さで表現されている。

 さて、『攻殻機動隊』をよく知る視聴者ならば、「傀儡廻」ということばには何かしらの違和感を抱くことだろう。それは原作に登場したスーパーハッカー人形使い」を連想させずにはおかないからである。

 この用語、そしていくつかの場面、台詞などからも、この作品が押井守監督の『攻殻機動隊 GHOST IN THE SHELL』を意識していることはあきらかだ。

GHOST IN THE SHELL?攻殻機動隊? [DVD]

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 この作品はもうひとつの『GHOST IN THE SHELL』なのだ、と断定してしまってもそれほど問題はないと思う。そもそも神山監督はこの『STAND ALONE COMPLEX』シリーズを、押井守のコピーたろうとするところから始めたのだという。

これも監督をやって初めて気付いたんだけど、攻殻は押井さんが作った、士郎さんの原作がある、ゲームのムービーもあると云った時に、当然最初は「全部リセットしてやろう」と思うわけ。「同じことはやらない」と思うわけ。でも、やらないぞって云うのは、やら、無い、んですよ。無いんです。だけど、「いいや。俺は押井さんの弟子だから、全く押井さんの真似してやりま〜す」って言って、キャスティングもほぼ同じ、カット1も同じでいいよと。そしたら、押井さんの攻殻とは違うね、と言われたわけですよ。何故かと云うと、同じキャスティングだから違いが判ったわけですよ。もし全部リセットして俺が新たにしたキャスティングだったら、成功しても失敗しても押井さんとの違いは判らなかったんです。でも、押井さんと全く同じにしたから、「押井さんに比べて若いねぇ」とか、「押井さんよりエンターテインメント性があるよ」とか言って貰えたわけですよ。それは、この針がどっちに振れるかって云う、まず最初のシーンがあるからですよ。むしろ最初は人と同じことをやれ、とおもいましたね。

 意識して押井守を模倣しようとしても、いつしかそこに個性は表出する。模倣における逸脱。その自覚が神山監督をして『GHOST IN THE SHELL』を意識した物語を作らせたのだろうか。

 事実、この『Solid State Society』は『GHOST IN THE SHELL』を意識しながらもまったくべつの作品に仕上がっている。むしろ正反対といっていい。

 この物語のなかで草薙素子はあくまでもひとりの人間として現実と向き合い、格闘している。「人形使い」と融合して超人間的存在へと進化していく素子はここにはいない。

 前作で素子は一連の事件の黒幕であることがわかりきっているゴーダを証拠不十分のため拘束できないというジレンマに苦しんだ。そして今回、彼女は九課を去っている。

 「エスパーよりも貴重」と呼ばれるその才能を必要とする組織はいくらでもある。いざとなれば彼女は九課の外でも犯罪を狩ることができるのだ。

 しかし、組織を離れればそこに限界が生じることも事実。ルールのなかでベターな選択を選ぶか、それともルールを外れてもベストの結果を生み出すか――ここらへんの問題意識はこじつけではなく『DEATH NOTE』と似ている。

 ルールを離れたところで凶暴な正義感を追求するなら、彼女の立場はやがて犯罪者へと変わっていくかもしれない。

 素子はそのぎりぎりのラインで行動しているわけで、その意味で、さいごに暗示される「傀儡廻」の正体は示唆的である。それは、もし素子がべつの道を歩んでいたらそうだった姿かもしれないのだ。

 というわけで、あいかわらず大満足の傑作。4月放送の神山監督による新作「精霊の守り人」がいまからたのしみでしかたない。