タイスの魔剣士―グイン・サーガ〈111〉 (ハヤカワ文庫JA)

タイスの魔剣士―グイン・サーガ〈111〉 (ハヤカワ文庫JA)

 かくしきれない豹頭をかくすため、旅芸人に化けてはみたものの、評判が評判を呼び、タイスの侯爵に召還されることになったグイン一行。

 頽廃の快楽都市でかれらを待ち受けていたものは、剣闘士としていのちを賭けたたかわせられるという予想外の展開だった。

 〈グイン・サーガ〉ぞろ目の第111巻、次つぎに襲い来るタイスの四強と対決するグインの運命やいかに? って、あまり緊迫感はないなあ。

 屈強の男が揃う格闘トーナメントで優勝をめざすという「少年漫画風」の展開であるわけだけれど、「だれが勝つのか?」という興味はまるで湧かない。

 だって、グインが負けるわけないもん(笑)。ほとんど範馬勇次郎が最大トーナメントに参加しているようなもので、必然的に関心は「どうやってタイスを脱出するか?」というほうに向かいます。

 いや、ほんと、これ、どうするつもりなんだろ。グインが勝利を重ねれば重ねるほど、注目をあびて逃げだせなくなるパラドックスがあるわけですが……。いったいいつになったらパロに着くことやら。

 次巻では100巻くらい前から伏線が出ていて、もう作者も忘れ去ったものを思われたクム最強の剣闘士ガンダルが登場するようです。

 まさかほんとに出てくるとはねえ。てっきりこのまま忘れ去れたままかと思ったのに。しかし、うっかりガンダルを倒してしまったりしたら、それこそ正体ばればれだと思うのですが、はたしてグインに策はあるのでしょうか?

 今回もまたじつにいいところで「次回に続く」となっていて、次巻への興味をそそります。

 それにしても、このタイスという街はなかなか楽しそうなところ。刺激の強い料理にきつい酒、路を歩けばすりやポン引きが待ち受け、なまめかしく媚びを売る娼婦たちが並ぶ、だれもが退屈と常識をきらい、快楽のためだけに生きる街。いやあ、こうでなくっちゃ、という気がしますね。

 もちろんその陰には危険がひそんでいるわけですが、しかし危険であればあるほど、いっそう魅力が増すのがこの手の街の困ったところ。若い頃のイシュトヴァーンを連れてきてやったら、さぞかし巧みに溶け込んでみせたことでしょう。

 澁澤龍彦の『快楽主義の哲学』を読んで以来、ぼくにもこういう刹那的な快楽主義的にあこがれる一面があります。やっぱり人間、刺激的な人生を送らなくちゃね。

快楽主義の哲学 (文春文庫)

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 最近、SM作家団鬼六のエッセイを読んだんですけれど、酒と煙草と女をやめるくらいなら死んだほうがましだ、と書いてある。その意気やよし。

快楽なくして何が人生 (幻冬舎新書)

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 しかし、我が身をふりかえって、それではその真似をしてみたいかというと、そうでもないなあ、と思うことも事実。酒も飲まなければ煙草も吸わない、女あそびもしない、つまらない男だからなあ。

 やっぱり冬はこたつのなかで蜜柑をむきながら、〈グイン〉の新刊でも読んでいるのがいちばんしあわせだよな。人間、身の丈にあった生活をすることが肝心です。