山本弘の話、続き。ぼくはこのひとの作品を十数年も読みつづけてきているので、書こうと思えばいくらでも話はあるのである。さて、このあいだも書いたが、山本さんの文章を読んでいると、その価値観の素朴さに驚かされることがある。

 たとえば、かれは著書『トンデモ本? 違う、SFだ!』のなかでJ・P・ホーガンの『断絶への航海』を取り上げている。これ、日本SF界ではかなり大きな批判を浴びた作品で、ぼくも鏡明さんが「本の雑誌」のコラムで貶していたことを憶えている。

トンデモ本?違う、SFだ!

トンデモ本?違う、SFだ!

断絶への航海 (ハヤカワ文庫SF)

断絶への航海 (ハヤカワ文庫SF)

 この作品の舞台ははるかな未来、主人公を務めるのは徹底した論理的思考を教育されたケイロン人だ。かれらの社会は政府をもたず、また法律も存在しない。

 それでは問題が発生した場合、どうやって解決するのか? じつは、「秩序を乱す厄介者」はだれかが撃ち殺してしまうのである! それについて山本さんはこう書く。

 たぶんこのあたりが、日本のSFファンを激怒させた部分だろう。法律が存在せず、誰もが気に入らない奴を自由に撃ち殺していい世界とは!
 だが、それは誤解というものだ。ケイロン人自身がそうした行為を恥じているのは、文中の描写から明らかだし、作者だって殺人を肯定しているわけではない。法律が存在しない以上、「悪人は誰かが撃ち殺さなくてはならない」というのは論理的帰結である。当然、「社会を乱したら誰かに殺されるかもしれない」という恐怖が、犯罪の抑止力として機能しているのだろう。

 いや、問題はその「悪人」をどうやって決めるのかということだと思うんだけど……。どうも、「社会秩序をひどく乱す奴は悪人だ」ということは自明視されているらしいんだよね。

 そもそも法律が存在しない世界で「犯罪」とはどう定義されているのかがふしぎだ。たぶん、そういった描写が日本SF界で評判が悪かった理由じゃないかと推測する。

 いや、もちろんそこら辺は実物を読んでみて判断するべきなんだろうけど、あまりに評判が悪いので、なかなか食指がのびないのです(ちなみに新装版の解説は山本さんが書いている)。

 さて、ここで注目してほしいのは「論理的帰結」という文章である。山本さんの考え方を追うには、この「論理」ということばがキーになると思う。

 かれはしばしば自分にとって駄作にあたる作品をこき下ろす。たとえば『トンデモ本? 違う、SFだ!RETURNS』ではダメSFを生み出す法則を取り上げて一刀両断にしている。

トンデモ本?違う、SFだ!RETURNS

トンデモ本?違う、SFだ!RETURNS

 そのことについて、「猫は勘定にいれません」では以下のように評している。

相変わらずの熱い書きっぷりで、山本さんのSFに賭ける情熱が伝わってくるのですけど、情熱がマイナス方向に向くこともあるのがこの人の困った所です。インターミッション「SF版『ノックスの十戒』を考えよう」というパートでは、ダメSFを一刀両断。ダメな物はダメ、というのは分かりやすいのですが、またこんな敵を作るようなことを書かんでもいいのになあ。今は無き山本BBSで揉めた話題をそのまま持ってきているようなところもあり、あの掲示板をウォッチしていた物としてはハラハラものでした。

 同感だが、ぼくには山本さんの考えかたがわかるような気がする(気がするだけなので、ほんとうに合っているかどうかは定かではない)。

 かれにしてみれば、ダメSFがダメなのは「論理的」な思考の帰結するところなのだと思う。理屈で考えておかしいものはおかしい、それがわからない奴は論理的思考ができていないのだ、ということなのではないか。

 このような態度は、自然科学の場面では有効だろう。たとえば「相対性理論は間違えている!」という内容の本がどのようにおかしいのか、それは純粋に理屈に説明できる。真実はひとつであり、十分に知性と知識をもった人間にはその正否が判断できる。

 問題は、フィクションを語るときにどのくらい有効かということである。ぼくは作品によってはあまり有効ではないのではないかと思っている。山本弘による『AIR』とか『Kanon』の感想を見てみたかったと思うのはそういう意味である。

 このあいだid:hakuohさんが文句をつけていたが、両作品とも論理的に内容を突き詰めていけば穴だらけの物語に過ぎない*1。そういう作品を山本さんがどのように評価したかということには非常に興味がある。まあ、たぶん酷評になると思うんだけれど。

 なまじ「論理的」な意見は、ときには喧嘩の種になるというお話。

*1:正確には、設定や展開を現実的に捉えた際に矛盾点が生じるという意味で、そういった瑕疵が作品全体にとって欠点にあたるかどうかは議論の余地があるだろう。でも、たぶん山本さんは欠点だと見なすと思う。