零崎軋識の人間ノック (講談社ノベルス)

零崎軋識の人間ノック (講談社ノベルス)

「…………で、誰の人から、ずたずたにしちゃえば、いーのかなぁ……三人いるからぁ……手近なところで、まずあたしから――」そこで、はっと気付いたように、首を振る。「……違う違う。自分をカウントしちゃ、駄目……ぶーです。この前それで非常に痛い思いを、しました……思い出しましょう」

 〈戯言シリーズ〉番外編第2弾。

 シリーズの前作『零崎双識の人間試験』はいまひとつの出来だったが、今回はすこぶる快調。あいかわらずのテンポでスピードで、世にも奇妙な物語を語りたおしている。

 しかし、今回、新顔のキャラクターはほとんど登場しない。タイトルロールの零崎軋識を例外として、出てくる顔、名前、どれも見覚えのあるものばかり。そういう意味では、〈戯言シリーズ〉の読者にはたまらない作品といえよう。

 とはいえ、先に〈戯言シリーズ〉を読み終えていなければたのしめないわけでもない。西尾維新はかわいげがないほどの巧みさで、この巻からの読者でも理解できるよう情報を操作している。

 ある意味では、〈戯言シリーズ〉の方こそこの作品の番外編であると捉えることもできる。じっさい、このシリーズと〈戯言シリーズ〉の落差は、〈戯言遣い〉が登場するか否かという一点にとどまる。うーん、意外と重要な役だったんだな、いーちゃん

 いずれにせよ、〈戯言シリーズ〉というかせを外された以上、この物語世界はどこまでもどこまでも拡大していくこともできるだろう。

 この作家は個性的な人物を生み出すことにかけて、たぐいまれな才能をそなえている。したがって、それらのキャラクターを絡み合わせていけば、際限なく物語を展開することができるはずだ。

 アメリカのSF作家ジャック・ヴァンスに、〈アルスター星団〉シリーズと題する作品がある。ある星団に属する三千の星、そのひとつひとつの物語を全三千巻かけて描いていく――そんな構想の作品らしい。

 未訳なのでじっさいに何巻まで刊行されたのかは知らないが、この荒唐無稽な構想は、その実、ただのはったりにとどまらないのではないかと思う。

 もちろん、現実には三千巻の本を書くことは無理である。ヴァンスのみならず、どんな作家にも不可能だろう。しかし、純粋に想像力の問題として見るならば、三千もの物語を創出することは決して不可能ではない――ヴァンスはそう考えていたのではないか。

 魅力的な人物がいて、そこに無数の関係性が生じる以上、三千はおろか、無限の物語を語ることもむずかしくない。真性の物語作家ならば、そんな風に考えていてもふしぎではない。

 相当に奇矯ではあるが、西尾維新も、本質的にはそんな作家なのではないかと思う。かれはキャラクターを生みだす――数しれず。かれは設定を練りだす――いくらでも。

 そして、練りだされた設定の上で、生み出されたキャラクターが出逢うとき、物語は無限に紡ぎだされる。そして、それだけでも読者はよろこぶ。

 ただ、それは創作においてある一定の限界に縛られることでもある。その罠にかかって特定のシリーズものしか書けなくなった作家のなんと多いことか。

 もっとも、人気絶頂で〈戯言シリーズ〉を完結させた西尾のことである。心配は無用だろう。これからもいくらでもまだ見たことのない物語を紡ぎつづけるに違いない。

 ところで、零崎一賊、意外と弱いですね。あれくらいなら普通に倒せそう。