- 作者: 石田衣良
- 出版社/メーカー: 角川グループパブリッシング
- 発売日: 2009/02/25
- メディア: 文庫
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ぼくにだって、今はわかる。きみはなにをしているときでも、必死で自分自身でいようとしただけなのだ。きみは真実を知っていた。命は火のついた導火線で、ためらっている余裕など本来誰にもないはずなのだ。
石田衣良の長篇恋愛小説。
いつ発症するかもわからない難病に冒されながら、自由奔放に生きる女性美丘(みおか)と、その運命の恋を綴っている。
美丘が死亡することは冒頭で予告され、物語はそこから時をさかのぼって、彼女が元気だった頃を描いていく。石田版『世界の中心で愛をさけぶ』というところだろうか。
陳腐といえば陳腐な話だ。どこまでもウェットでセンチメンタルな展開は、ありふれた難病もののテンプレートから一歩も出ていないように見える。
ところが、じっさいに読んでみると、意外にも胸に熱いものがこみあげてくる。
この作品のなかで、石田衣良はいつものテクニカルな文体を放棄している。〈池袋ウエストゲートパーク〉で見られたような凝りに凝った表現はほとんど登場しない。文章も、物語も、徹底的にシンプルにチューンされている。
しかも、その聖なる単純さはじつに大きな効果をあげている。非常にちからづよく、また間口が広い印象を受けるのだ。この小説は中学生なら楽に理解できるし、おもしろく読めるはずだ。
このように間口を広めておくことは、小説にとって非常に重要なことだと思う。いかに広い層に対して門戸をひらくかということは、創作において大きな課題だからだ。
もちろん、かぎられた読者にしか理解できない名作というものはある。しかし、そういった作品だけがもてはやされるようになれば、自然と全体も廃れていくはずだ。その意味で、この作品に拍手を送りたい。
それはともかく、この表紙は素晴らしいですね。そのほかの点も含めて、本としての完成度が高いと思う。ページ数をあらわす文字のフォントがおしゃれ。