美丘、美丘、美丘。

美丘 (角川文庫)

美丘 (角川文庫)

 ぼくにだって、今はわかる。きみはなにをしているときでも、必死で自分自身でいようとしただけなのだ。きみは真実を知っていた。命は火のついた導火線で、ためらっている余裕など本来誰にもないはずなのだ。

 石田衣良の長篇恋愛小説。

 いつ発症するかもわからない難病に冒されながら、自由奔放に生きる女性美丘(みおか)と、その運命の恋を綴っている。

 美丘が死亡することは冒頭で予告され、物語はそこから時をさかのぼって、彼女が元気だった頃を描いていく。石田版『世界の中心で愛をさけぶ』というところだろうか。

 陳腐といえば陳腐な話だ。どこまでもウェットでセンチメンタルな展開は、ありふれた難病もののテンプレートから一歩も出ていないように見える。

 ところが、じっさいに読んでみると、意外にも胸に熱いものがこみあげてくる。

 この作品のなかで、石田衣良はいつものテクニカルな文体を放棄している。〈池袋ウエストゲートパーク〉で見られたような凝りに凝った表現はほとんど登場しない。文章も、物語も、徹底的にシンプルにチューンされている。

 しかも、その聖なる単純さはじつに大きな効果をあげている。非常にちからづよく、また間口が広い印象を受けるのだ。この小説は中学生なら楽に理解できるし、おもしろく読めるはずだ。

 このように間口を広めておくことは、小説にとって非常に重要なことだと思う。いかに広い層に対して門戸をひらくかということは、創作において大きな課題だからだ。

 もちろん、かぎられた読者にしか理解できない名作というものはある。しかし、そういった作品だけがもてはやされるようになれば、自然と全体も廃れていくはずだ。その意味で、この作品に拍手を送りたい。

 それはともかく、この表紙は素晴らしいですね。そのほかの点も含めて、本としての完成度が高いと思う。ページ数をあらわす文字のフォントがおしゃれ。