暗黒神殿 アルスラーン戦記12 (カッパ・ノベルス)

暗黒神殿 アルスラーン戦記12 (カッパ・ノベルス)

「わが国王、永遠なるわが国王よ」

 田中芳樹の代表作〈アルスラーン戦記〉待望の最新刊。今回も感想はひと言で足りる。おもしろかった!

 前巻はパルス王国東の要害ペシャワール要塞に、数万もの魔物が押し寄せるところで終わっていた。この巻はシンドゥラ王国で国王ラジェンドラ2世が政務を執る場面から始まる。

 読者の興味を煽るだけ煽っておいて、全くべつのところから物語をはじめる焦らしが心憎い。しかもそれは直後の展開の伏線になっている。

 先日、〈銀盤カレイドスコープ〉を読んだときも巧みな構成だと思ったものだけれど、さすがにちょっと格が違いますね。

 そのほかの場面でも、くるくると視点を変えながら複数の場所で起こる出来事を並行してえがいていく手法が絶大な効果を上げている。

 物語の焦点はあくまでアルスラーンと旗下の十六翼将にあるのだが、時にパルス王国以外のところに視点が飛び、それが予想もしない形で本筋に絡んでくる。ここらへんの展開は絶妙としかいいようがない。

 遥かなミスル王国で陰謀をめぐらし、無位無官の身からのしあがって簒奪を企むヒルメスのかっこいいこと!

 いままでは王家の血統にこだわる偏狭な人物という印象が強かったが、ここに来て果断の野心家としてまたべつの魅力を発揮しはじめている。

 基本的に田中芳樹の小説は登場人物が増えれば増えるほどおもしろくなる傾向があると思う。老若男女を絡めあわせながら、個人の思惑をこえた運命の変転をえがくとき、その非凡な構成力は最大限に活かされるのである。

 これでもう少し続刊が早ければだれも文句を付けないだろうに。まあ、今回は素早く出たから文句もいえないけれど。ぜひ第13巻以降もこのペースでお願いします。

 そのほかには、国王としての義務を語るアルスラーンを前に軍師ナルサスが不吉な予感を憶える場面が印象的だった。どうもジークフリード・キルヒアイスの法則*1が忍び寄っているなあ。たとえ主人公でも容赦なく殺す作家だから、心配である。

 次巻ではいよいよアルスラーンの十六翼将が一堂に会し、封印された蛇王ザッハークがよみがえるという。おそらく、解放王アルスラーンの黄金時代は十六翼将そろいぶみの場面で頂点を迎え、そのあとは悲劇的な時代を迎えることになるのだろう。

 ここまではアルスラーンの旗下にはほとんど死亡者が出ていないだけに、いっそう不吉な印象は募る。さて、何人生きのこることやら。楽しみなような、恐ろしいような。

 どうかエステルさんの命だけはたすけてやってください。ダリューンナルサスはあきらめますから。といっても「皆殺しの田中」のことだから、ききとどけてはくれないだろうが。

 とにかく次巻がたのしみだ。この調子で出していけばあと5年くらいで完結する計算になる。作者の勤労意欲がそれまで持続するよう、皆でお星さまにお祈りしましょう。

*1:良い奴ほど早く死ぬ。