「さよなら」

 本格フィギュアスケート小説〈銀盤カレイドスコープ〉堂々の完結編。

 前巻の結末でフィギュア界を統べる女帝リアに宣戦布告したタズサは、今回、遂にリアと決別することになる。

 かつて彼女が垣間見せた親しみは幻に過ぎなかったのか? クーデレからクーツンへ変貌したリアを前にタズサに成す術はあるのだろうか? とか下らないことをいっている暇もない緊迫の展開が続く。

 なるほど、これはおもしろい。トンボさんが褒めまくっているのも納得の出来。

 このシリーズは、純粋に物語だけを見れば、2巻まででほぼ完結している。したがって、そのあとの展開はいささか蛇足感がただよう。

 聞いた話によると、「ヨーコの話、いらなくね?」とか、「キャンディって何のために出したの?」とか、「2巻で読むのをやめたひとは勝ち組」などと心ないことばを浴びせる能無しブロガーもいたとか。だれのことだろ。

 しかし、この結末を見てしまうと、物語がここまでつづいてきたことは間違いではなかったと納得するしかない。

 今回の見所はなんといってもリアというキャラクターに尽きるだろう。幼少期からその天才ぶりを発揮し、あたりまえのように銀盤を支配する小柄な美少女。

 彼女はいったいその澄んだ瞳の奥で何をかんがえているのか? それは〈銀盤カレイドスコープ〉最大の謎だった。ある意味では、今回もその謎はとけない。しかし、この物語のクライマックスはリアの存在なしに語れない。

 この巻でタズサはアスリートとしてひとつの頂点を迎えている。かつて、オリンピックの重圧を前にふるえていたかよわい少女はもういない。

 ここにいるのは、不可能とも思える目標を設定し、奇跡とも思える確率にいどむため、超人的な訓練をこなしていくひとりの果敢なアスリートの姿だ。

 百万にひとりの恵まれた才能をたゆまぬ努力によって磨きぬき、圧倒的な上位者を前にしても怖気づくことなくいどみかかっていくチャレンジャー。

 しかし、リア・ガーネット、神に選ばれた天才は、その努力を、刻苦を、研鑚を、たやすく蹂躙していく。その存在感はまさに圧倒的。ただの滑る長門有希じゃなかったのか!

 そして、そのリアの存在感を踏まえた最終巻の展開はじつに意表をつく。まさかまさかこんな展開になるとは。

 しかし、それは決してたんなる意外性ねらいの奇策ではなく、これまでの主題をなぞるものなのである。お見事としかいいようがない。

 この小説は、スポーツを題材にしてはいるが、それでいて〈DIVE!!〉や〈バッテリー〉のようなスポーツを通して人間を見つめようとする作品とはだいぶ傾向が異なっていると思う。

 これは人間である前に選手であるような超人たちを描ききった「アスリート小説」なのだ。その意味ではまさに前例のない作品であり、堂々の完結は快挙といえる。

 ただ、一本の小説として見たとき、それでもなおもの足りなさがのこることも事実。筋立てのおもしろさは文句なしだが、小説としての深みには課題が見える。次回作に期待する所以である。