- 作者: よしながふみ
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「ほら 上様の方が私よりずっとお似合いでございます」
たとえば萩尾望都が〈ポーの一族〉を描きはじめたとき、その時代の読者は作品の真価に気付いただろうか。
それがたんにひとつの優れた作品というにとどまらず、永遠に漫画史に記憶されるべき奇跡なのだと、気付いていたのだろうか。
よしながふみの最新作〈大奥〉を読むとき、ぼくが感じるのもその種の感慨だ。目の前で歴史が形づくられていくことの、えもいわれぬ感動。
おそらくこの作品は2000年代の漫画界にとってある種の記念碑となることだろう。そういった作品をリアルタイムで読みすすめられることに感謝したい。
この物語の舞台となるのは八代将軍吉宗の時代の大奥である。ただし、そこに女性の姿は見当たらない。
大奥に集められたのは、女将軍に子種を与え、徳川の血を繋ぐための美男三千人。そこでは日夜妬みや嫉みにみちた男たちの策謀が渦巻いているのである。
男女を逆転させてみることで、大奥という場所がいかにグロテスクな代物であったかはじめてわかる、この発想の妙。
ここでは男も女もひとりの人間としての尊厳を無視され、ただ次世代へ血統を繋ぐための道具と化している。
しかも、よしながふみはただ従来の構図を逆転させることを楽しんでいるだけではない。
この地獄絵図のなかにありながら、ひとりひとりの人物はなんと凛然と立っていることだろう。その強さが、気高さが胸を射る。
既存のジェンダーを紙のように打ち破る傑作。今年のベストはこれかな。