レインツリーの国

レインツリーの国

あなたを想う。
心が揺れる。
でも、会うことはできません。
ごめんなさい。

 サラリーマン3年生の向坂伸行は、ある日、むかし読んで衝撃を受けた小説*1の感想を求めてひとつのサイトにたどり着く。

 「レインツリーの国」と題されたそのサイトでは、向坂の読んだ作品について真摯な感想が記されていた。

 その文面に熱い共感を憶えたかれは、気づくと一通のメールを送っていた。それが過酷な恋の始まりを告げることになるとも知らずに――。

 有川浩の新刊は、同時期に発売された「図書館内乱」の作中作にあたる恋愛小説。今回、お得意のSF要素は一切ない。作者自身の言葉を借りるなら、「真っ向勝負で飛び道具なし」の恋愛ものである。

 あとがきを読めばわかることだからネタバレすると、向坂が恋する女性はある障害を抱えている。物語はその障害を巡る向坂と彼女のやり取りに終始する。この言葉の応酬が、なかなかに凄い。

 有川は以前、「海の底」でも言葉を失った少年を描いている。そのときはご都合主義の匂いがして、それほど感心しなかった。

 しかし、今回の作品では、この作家が、この問題について、たんに「よく取材した」という次元をこえて深く考えていることが読み取れる。

 向坂とかれの相手となる女性は、時に互いの心を深く傷つけ、血まみれになりながらも言葉を紡ぐことをやめない。そしてそれがかれら自身を解放していく。きれい事では済まないそのやり取りには、迫力がある。

 どうやら有川浩の新境地を拓く一作になりそうである。おもしろかったよ。

*1:作中では「フェアリーゲーム」と題されているが、どうやら笹本祐一の〈妖精作戦〉シリーズがモデルらしい。