レベル3 (異色作家短篇集)

レベル3 (異色作家短篇集)

 この部分を読んだときのルイーズの反応はみじめだった。「ああ、いやんなっちゃう」と彼女は嘆いた。「どうして現実の人生は、小説のようにこんなすばらしい具合にいけないのかしら……」

 いままで、この日記で、随分たくさんの小説を紹介してきた。良い作品もあったし、そうでない作品もあった。いずれにしろ、ぼくがそろそろ新作を紹介することに飽きてきたといっても、だれも意外には思わないだろう。

 そこで今回は、この「レベル3」に収録された十一篇の作品の書き出しだけを並べてみて、それぞれの作品に自分自身を語らせることにしたいと思う。

 あなたはそれを読んで、続きを読んでみたいと思うかもしれないし、思わないかもしれない。が、たとえ読む気をそそられなかったとしても、今回ばかりはぼくの責任じゃない。

 しかし、ぼくが想像するに、おそらく――いや、やめておこう。ここは、なにも言わず、ただ書き出しを、それだけを並べるにとどめておこう。

 ニューヨーク・セントラル鉄道の社長や、ニューヨーク=ニューヘイヴン=ハートフォド鉄道の社長ならば、山と積んだ時間表にかけて、地下は二階しかないと断言するにちがいない。しかし、ぼくにいわせれば三階だ。(「レベル3」)

 正直なはなし、ヘレンベック夫妻に、どこかおかしなところがあると、最初から思っていたとはいえない。(「おかしな隣人」)

 私は心底おそろしい――じぶんのことはさほどでもないが、あんたやほかの、私のように六十六でもなく、人生をまだ生ききっていないみんなのために、怖い。(「こわい」)

 普通の旅行案内所へ入っていくような顔をして入っていくんです。バーで逢った、見知らぬ男はそういったのだ。ありふれた質問を二、三するんです――旅行の計画とか、休暇の過ごし方とか、なんでもよいからそんな質問をなさい。(「失踪人名簿」)

 ベン・ステーションの雑踏を人波にもまれながら歩いていくチャーリイの姿を、あなたがふと見かけたにしても、二度と見直しはしなかっただろう――事実だれひとり、そんな者はいなかった。(「雲のなかにいるもの」)

 この話は、ぼく自身のためにする。気になって、苦しくて仕方がないからだ。(「潮騒」)

 警察署長クエイルに関するでたらめきわまる中傷記事がどうしてクラリオン新聞にまぎれこんだのか、だれひとり知るものはなかった。が、全責任は主筆にあった。それは金曜の印刷日で、旧式な平圧印刷機が、週に一度発行される千二百部の新聞をいよいよ刷りにかかろうとする前の小休止のときだった。(「ニュースの陰に」)

 おい、若いの、両手をひろげてぶんぶんいうのはもうやめんか――お前が飛行士なのはよくわかったよ! お前は戦争でよく飛んだ、ああ飛んだともさ。わしの孫もそうだった。(「世界最初のパイロット」)

 ふつうの雑誌の挿絵では、とてもこの物語にはむかないだろう。たとえば、主人公の娘は(名前はルイーズ・ハップフェルト)美人というほうではないし、青年はといえば(ラルフ・シュルツというのが、その名前だ)、背が低くて、眼鏡をかけているというていたらく。(「青春を少々」)

 それはよく判っている。なぜぼくが世界中のだれ一人として憶えてすらいないような時と場所に行きついてしまったのか、その理由を話せないということは。(「第二のチャンス」)

 居間の小さなデスクに向かって、トム・ベネクは二枚の薄紙と、やや厚手のトップ・シートを一枚、カーボン紙のあいだにサンドイッチにして、ポータブル・タイプライターに巻きこんだ。(「死人のポケットの中には」)

 どうだろう、この思わせぶりな文句の数かず! 練達の作家というより、天才詐欺師の手口だ。

 あなたがこの続きを読みたいと思うかどうかは知らない。ただ、白状すると、ぼくはあっさり踊らされた。そして、まあ、損をしたとは思っていない。

 しかし、まあ、あなた自身の決断は、あなたに任せておくことにしよう。そう、新作を紹介することに飽き飽きしていることでもあるし、ね。