ネバーランド [DVD]

ネバーランド [DVD]

 ネバーランド

 それはどこか遠い場所にある夢の国。妖精たちやインディアン、そして凶暴な海賊が住み、永遠に歳をとらない少年ピーター・パンが暮らしている。

 いまでは知らない者のないその国は、いまをさかのぼること100年以上前、劇作家ジェイムズ・バリによって生み出された。

 この映画では、バリが不朽の名作を生み出すまでの物語を語っている。ただし、上映前に但し書きされている通り、あくまでフィクションであって、どの程度現実に即しているかは保証のかぎりではない*1

 とはいえ、素晴らしい映画ではあることは間違いない。夢みるバリを演じるのは、ジョニー・デップ。そしてピーター・パンのモデルとなるピーター少年役を務めたのは、フレディー・ハイモア。「チャーリーとチョコレート工場」のコンビである*2

 大人になっても夢を追うことを忘れないバリの姿は、「チャーリーとチョコレート工場」のウィリー・ウォンカを思わせる。ただ、夢のチョコレート工場にひきこもってしまったウォンカに比べ、バリは遥かに大人だ。

 冒頭、バリの新作は失敗し、新聞で酷評される。そこでかれのスポンサーはさらなる新作を要求してくる。バリはたしかに夢を売っているが、ウォンカとは違って、あくまでも現実に生きている男なのだ。

 そんなとき、かれは 男の子ばかり四人の兄弟に出会う。そのなかのひとり、ピーター少年は父親をうしなって傷ついた心を守るため、かたくなに心を閉ざしていた。

 バリはこの少年をモデルにして新作の構想を練る。しかし、少しずつ心をひらきはじめたピーターたちに、またしても悲劇が襲いかかってくる。ピーターは真実を隠す大人たちへの不信をあらわにするのだが――。

 この映画は、想像力の賛歌である。ぼくらは空想が現実を変えることはできないことを知っている。この物語のなかでも、バリの懸命の努力にもかかわらず、悲劇は着々と進んでいく。

 そんななかで、ピーターをはじめとする少年たちは、否応なく大人になっていく。だれも時が過ぎることを止めることはできない。そう、ただひとり、永遠の少年ピーター・パンを除いては。

 そして、もちろん、ピーター・パンなんていない。ネバーランドなんてどこにもない。ぼくらはそのことを知っている。その苦々しい現実を知ることが、ひとが大人になるということである。

 しかし、それでいて、たしかに、ネバーランドはある。すべてのひとの心のなかに、その理想郷は存在する。

 現実は現実、だれもそれを変えられない。その証拠に、バリ夫人は、ひとり部屋にこもり空想に耽るバリに耐えきれず、かれのもとを去っていく。

 バリがピーターたちの母親にそそぐ愛情にしても、世間的には不倫の愛ということになるだろう。それでも、ネバーランドはある。そこはだれの手もとどかない空想の世界だ。しかし、それが心のなかにあるというだけで、われわれは救われている。そう思う。

*1:たとえば、作中では、バリが出会う兄弟は4人だが、じっさいには5人だったらしい。しかし、バリがこの子供たちのうちふたりを養子にしていることは事実。Wikipediaによると、劇中にも登場するマイケルは20歳で溺死している。美しい物語の影には、悲しい現実があるということか。

*2:じっさいには「ネバーランド」のほうが公開は早いようだ。それにしても、ジョニー・デップは普通にしていると普通にハンサムだなあ。変な役ばかりやっている印象があるけれど。