ぼくがカンガルーに出会ったころ

ぼくがカンガルーに出会ったころ

 浅倉久志の名前を知らないSFファンはいない。半世紀近くにわたって精力的に活動を続けるきわめて優秀な翻訳家である。

 いや、もはや優秀という次元をこえて、翻訳SFの世界では雲上人みたいな存在になっている気すらする。還暦をこえてなお、最先端のSFを訳しつづけるその精力的な活動にはあたまが下がる。

 本書は、その浅倉久志の過去の文章をまとめた本。これがおもしろい。なにしろ過去数十年におよぶ翻訳生活がそのまま反映された文章ばかりなので、その時代時代のSFの雰囲気を察する役に立つ。

 また、ディック、ヴァンス、ディレイニーヴォネガットティプトリー、バラード、ラファティ、ギブスン、コードウェイナー・スミスら現代SFを代表する作家の作品に対する的確な批評も楽しい。

 あるいは皮肉の効いた揶揄もいい、それに翻訳の苦労話も、そしてまたユーモラスな作家評も、と内容は多岐にわたり、SFファンなら必読の一冊となっている。やたら引用が多いことも微笑ましい。

 本書の中心になっているのは訳者あとがきの再録だが、これは当然読んでいる文章が多いので斜め読み。なんといっても圧巻なのは、じつに無慮44ページ(!)にわたる翻訳リストである。

 長篇短篇あわせて何百作あるのかわからないが、ほとんど翻訳SFの歴史そのものという印象。勿論、ぼくが読んでいる本もある。本当にありがとうございました。これからもよろしくお願いします。としかいいようがない。