霧の訪問者 薬師寺涼子の怪奇事件簿 (講談社ノベルス)

霧の訪問者 薬師寺涼子の怪奇事件簿 (講談社ノベルス)

 警察の所有する最大の特権は何か。犯罪を強制的に捜査できる、ことではない。そもそも、そのできごとが事件かどうかを決めるのは警察なのだ。その権限こそが、最大の特権なのである。

 〈薬師寺涼子の怪奇事件簿〉シリーズ第七弾。

 今回の事件の舞台は風薫る軽井沢。この風光明媚な観光地で、警視庁きっての傍若無人警視こと薬師寺涼子と、部下の泉田潤一郎は、いつものごとく奇禍に巻きこまれる。

 いや、間違えた。巻きこまれるのは泉田くんだけで、涼子はみずから事件へ飛び込んでいくのだった。

 今回は作者もタイトルを『泉田警部補の受難』にしようかと考えたというくらいで、泉田くんは実にひどい目に遭う。

 まあ、いつもひどい目に遭っているのだが、それにしてもこの巻では冒頭から災難つづき。お祓いにでも行ったほうがいいかもしれない。しかしそこは主人公、後半になると回復して大活躍をくりひろげる。

 というわけで、今回もまずまず満足の出来だった。お約束の政治風刺や権力批判がわずらわしくないこともないのだが、それをさっぴいてもやはりおもしろいと思う。

 物語の構造そのものはごく他愛ない話ではあるものの、際限なくばかばかしくなっていく展開がすさまじい。断じてこれは伝奇小説などと呼ぶべきものではない。

 じつに、田中芳樹田中芳樹たらしめているのは、この意地の悪さであるに違いない。政財界汚職だの、暴力団組織だの、キャリア官僚だの、米国宗教右派だの、もっともらしくい素材を使ってやっていることはといえば、ただの悪ふざけなのである。

 このなんともいえないたちの悪さ。ほかの伝奇作家やアクション作家が、みんなまとめて真面目に見えるもんね。いや、ほんとの話。