第六の大罪 伊集院大介の飽食

第六の大罪 伊集院大介の飽食

「これまでアナタが食べてキタ沢山の牛さん、ヒツジさん、ブタさん、トリさん、お魚さんへの供養に今度はアナタ食われる。仏教思想とても美しい思いマス。ワタシ、深く仏教帰依しマスネ」

 名探偵伊集院大介シリーズ最新作は、四つの短篇を一つのテーマで数珠繋ぎにした中短編集。

 キリスト教における七つの大罪の第六、「暴食」を意識したとおぼしいタイトルからもわかる通り、そのテーマとは、「食」である。東京に3LDKの探偵事務所をかまえ、難事件のおとずれを待つ大介のもとに、食を巡るさまざまなトラブルが持ち込まれる。

 といっても、間違えても「美味しんぼ」的なグルメ・ミステリーを期待されては困る。どちらかといえば、美食というより、下手物料理にかんする事件が多い。

 たとえば、巻末の中篇「地上最凶のご馳走」では、伊集院大介は、テレビ番組で調理されるはずが逃げだしてしまったわにをさがすことになる。コミカルな冒頭から、次第にサスペンスを増していく進展が見事。

 物語の中心となる「中華の神様」のキャラクターは強烈で、やはりこのひとの人物描写は凡庸ではない、と思わせられる。珠玉の名作、というほどのものではないが、家族の絆をあたたかに謳いあげた結末は感動的だ。

 余談だが、作中で蛇やわにの料理が下手物料理の代表格としてとりあげられていることが気になる。ぼく、蛇もわにもふつうに食べられると思うけどなあ。

 ざんねんながら、まだ食する機会はないけれど、蛇なんて丸焼きをあたまからかじりつくのも平気なんじゃないかな。それよりも納豆を食べる人間のほうがよほど信じがたい。

 地球が氷河期に再突入して、日本が飢餓時代を迎えでもしないかぎり、ぼくが納豆を食べることはないだろう。最近はおとなになったからひとが食べることまで文句をつけようとは思わないけれどね。

 まあ、それはどうでもいいか。「食べたい貴方」はちんぴらやくざが下手物好きの外国人の接待をさせられる物語。

 オフビートなブラックユーモアが効いている短篇で、綾辻行人の同趣向の短篇「特別料理」を思わせる。落ちも同系統。やっぱり究極の美食といえば、だれでもこの手の話を思いつくものらしい。ちょっとひねりが足りないかな。

 巻頭作の「グルメ恐怖症」は、いわゆるプロパビリティの犯罪ものだが、じつは栗本はこの「飽食殺人」とも呼ぶべき着想を、過去にも一度、小説にしている。「伊集院大介の冒険」収録の短篇「誰かを早死にさせる方法」である。

 もちろん、処理の仕方は異なっているのだけれど、ちょっと手抜きの気がしないでもない。しかし、これもブラックユーモアが効いていて楽しい作品ではある。

 「芥子沢平吉の情熱」は、昔、大陸で食べた思い出の味を再現することに情熱を傾けた男の半生記。皮肉な結末が印象的。

 うーん、これは――切ない。現実にこんなことがありえるのかどうか知らないけれど、たしかにもしこんなことがあったら生きる意欲も失せるだろうな。

 以上四篇、いずれも水準以上の佳作。最近の伊集院大介ものに見られた過剰な印象が薄れて、すっきりとまとまった作品に仕上がっているのも好印象。

 満腹、満腹。余は満足じゃ。