海底牧場 (ハヤカワ文庫SF)

海底牧場 (ハヤカワ文庫SF)

 「海底牧場」。

 このどちらかといえば地味なタイトルからもわかるとおり、近未来の海底を舞台にした物語である。アーサー・C・クラークといえば宇宙、というイメージをもった読者にとっては、少し意外な作品といえるかもしれない。

 しかし、クラークは宇宙と同じくらい深い愛着を海に抱いているらしい。イギリスからスリランカに移住して以降は、自身、かなりの海底冒険を楽しんでいるとか。

 おそらくこの小説はそんな体験から生み出されたものなのだろう。同じく海を扱ったジュブナイル「イルカの島」とならんで、クラークの異色作といっていいかもしれない。

 たしかにクラークの数多くの名作のなかでは特に有名な小説でもない。しかし、これがしみじみといいのである。

 細部はだいぶ忘れているから、評価は付けないけれど、はじめて読んだときの胸に染み入るような読後感は忘れがたい。

 アーサー・C・クラークはとにかくアベレージの高い作家で、「これは外れだ」とため息をつきたくなるような作品を読んだ憶えがない。

 もちろん、作品ごとに出来不出来はあるが、どれもそれなりに読ませるものばかり。あまり名の知れていない作品でも、おどろくほどおもしろい。

 最近、早川書房の「名作セレクション」企画で一気にクラークの代表作が読めるようになったことは非常に嬉しいことだ。

 ちなみに、解説を書いているのは「クリスタルサイレンス」の藤崎慎吾。これも悪くない解説であった。