- 作者: ふじつか雪
- 出版社/メーカー: 白泉社
- 発売日: 2006/09/05
- メディア: コミック
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――音がないのは …オレだけだろう あんたには聞こえる耳がある 同じ水槽じゃないだろ …もしオレらが金魚なのなら 金魚蜂にいるのは ―――オレだけだよ
「金魚奏」。
響きの美しい、印象的なタイトルだと思う。
「マンガがあればいーのだ。」で取り上げられていたから読むことにしたのですが、なるほど、これは佳作。
このところ、白泉社系の漫画は、「カラクリオデット」、「会長はメイド様!」など佳品が多いですね。大傑作というほどでもないこともたしかだけれど。
かんたんにいえば、聴覚障害をかかえる若者に恋をした少女の物語です。
かれがたたき出す太鼓の音に、ひと目惚れ(ひと耳惚れ?)した彼女は、かれの弟を使ってアプローチをかけていくのだが――というお話。恋に積極的な少女のすがたがなかなかきもちいい。
漫画における聴覚障害者の表現には、じつは長い歴史があります。くわしく知りたい方は、「マンガの中の聴覚障害者」というサイトがありますので、こちらをご覧ください。
もっとくわしく知りたい方向けには、永井哲「マンガの中の障害者たち」という本があります。これ、じつに良い本なので、おすすめです。ふだんぼくたちがなかなか気がつかない視点から、現代漫画のありかたを見つめなおすことができます。
こういうマイノリティ視点からの批評には、教えられることが多い。
今回の話とは直接関係がありませんが、たとえば石井政之「顔面漂流記 −アザをもつジャーナリスト−」では、漫画において異貌(ユニーク・フェイス)の人間が、つねに社会からはみだしたアウトサイダーとして描かれてきたことが語られていて、興味深かった。
それは手塚治虫の「ブラック・ジャック」ですら例外ではない、といいます。いま、ぼくは例外といっていいだろう作品の名前をひとつ挙げることができますが、それは余談。またいつか語ることにしましょう。
さて、上記のサイトによると、聴覚障害者漫画の歴史において、非常に決定的、かつ革命的な役割を果たしているのは、いま「天上の弦」をかいている山本おさむの、「遥かなる甲子園」という長編だということです。
これこそ聴覚障害者ものの最高傑作と推すひとは少なくない。でも、ざんねんながら、ぼくは未読。
この作品以降、聴覚障害者ものは、テレビドラマ化された軽部潤子「きみの手がささやいている」など、いろいろな作品が登場してくることになります。この「金魚奏」もその流れのなかにある一作ということになるでしょう。
さすがに新人だけあって、いくらか展開が急すぎる気はするし、まだ未完成な印象もなくはないけれど、でも、キュートな作品だと思う。
絵柄もかわいいし、デビュー作からしてむずかしいテーマに取り組んだことにも意欲を感じる。ひょっとしたら化ける作家かもしれない。これからに注目、ってところでしょうか。次回作を待っているぜ。