あいかわらず先崎学のエッセイを一冊。

 この本は10年近く前のものなので、先崎はまだはたちを過ぎたばかりの少壮気鋭の若手棋士である。

 といってもかれは17歳で棋士になっているから、既に3,4年は棋士として過ごしていることになる。「一葉の写真」と比べると内容的に洒脱さが増していて、かれがプロの世界に慣れてきていることがわかる(ような気がする)。

 この頃、のちに作家に転身する大崎善生はまだ「将棋世界」の編集長だし、羽生善治の七冠制覇も未来の出来事に属する。そして夭折した村山聖もまだ一棋士として名人をめざしている。

 この本のなかで村山について書かれた個所はいま読むと切ない。先崎は村山の死後、羽生善治と組んでかれの棋譜を解説した本を出版することになる。

 しかしこの本の時点ではそのような運命を知るすべもなく、かれの文章はあくまで明るい。その明るさがかえって切ないのだ。村山の人生を描いた大崎善生「聖の青春」も名著なので、ぜひ読んでほしい。泣けるよ。

 それにしても、このひとのエッセイにはよく酒を飲む場面が出てくるなあ。中学生のころから雀荘に堂々と出入りし、「小卒」を自認するひとのことだからおかしくもないのだが、勝っては飲み、負けては飲んでいることがわかる。

 勝って飲む酒はさぞ美味かろう。あまり酒をたしなまないぼくではあるが、その味を想像すると、ちょっとうらやましくなってくるのである。