ARIA 9 (BLADE COMICS)

ARIA 9 (BLADE COMICS)

 ほのぼの風景漫画第9巻。表紙が縦なのはAmazonのせいなので気にしないでください。

 さて、この巻でもあいかわらずのんびりした展開が続く。アリスが「自分ルール」として影の部分だけを踏んで家に帰ることを決意する話など、自分自身のこども時代を思い出させられて微笑ましい。

 だれでも横断歩道の白い部分だけを踏んで歩こうとしたとか、あるでしょ(ないか?)。おなじ話を荒木飛呂彦がかいたらさぞかしディープなサスペンスになっただろうが、この漫画は「ARIA」なのでそんな展開にはならない(あたりまえだ)。

 そういえば、ロアルド・ダールが同じようなアイディアの短篇を書いていたっけ。

 その一方で、ひょっとしたらこの世界には存在しないのではないかと思っていた「競争」や「悪意」を巡るエピソードが織り込まれていることも興味深い。

 これほどあたたかく、やわらかい世界にも黒い染みは存在する。いや、もしかしたら、すべてが美しく調和しているのは主人公のまわりだけなのかもしれない。

 彼女の視点でみるからこそすべては美しく、清らかなのであって、本当はぼくらの生きるこの世界となにも変わらないのではないか。

 清水玲子の「秘密」という短篇(傑作!)で、聖人といわれた大統領の記憶を再現する場面がある。かれの目から見た世界は、すべてが美しく、人びとは善良に見える。

 それと同じ魔法を、彼女の心もそなえているように思えるのである。