大いなるもののために命を懸ける

なんていう馬鹿げたことはあってはならない!と思いつつ

自分を越えた何かに命を賭けられない人生なんてクソだ!

とも思う。

 この気持ちはわかる気がする。小野不由美作「十二国記」の一作「東の海神 西の滄海」の中盤にこんな場面がある。個人的に「十二国記」のなかで最も好きなワンシーンだ。

 雁州国延王尚隆が配下のある人物を抜擢したときのこと。感激するその人物に対し、尚隆はこういい諭す。

「礼は言わぬほうがいい。仮に州侯が叛旗を翻せば、まず間違いなく牧伯の身は危うい。州侯城へ行ってくれと言うは、万が一、事があったときには命を捨ててくれと言うに等しい。――だが、俺には手駒が少ない。死なせるにはあまりに惜しいが、お前の他に行ってもらう者がいない」

 あまりにも惜しいが、お前しかいない。もし敬愛する主君にそういってもらえたなら、ぼくならそのひと言のために死んでもいいと思う。いや、掛け値なしに本気でそう思う。

 もちろん、そのときに本当に死ねるかどうかはべつだが、一生のうちに、自分の命をそれだけ高く買ってもらえる機会がどれだけあるだろう。一命を賭して任務に向かうにあたいするひと言ではないだろうか。

 いのちは大切だ。だからこそ、そのいのちをささげるにあたいすることに出逢えた人生は幸福だといえる。たとえ非業の死を遂げるにしても、ね。