空を飛ぶ恋―ケータイがつなぐ28の物語 (新潮文庫)

空を飛ぶ恋―ケータイがつなぐ28の物語 (新潮文庫)

 現代が生んだ魔法の機械、携帯電話をめぐる28篇を数珠繋ぎにしたショートショート・アンソロジー島田雅彦から北村薫まで、28人の作家が28通りの文体でそれぞれの世界を紡いでいる。

 一篇が原稿用紙にして数枚程度の内容なので、物語的には特に見るべきものはない。強烈な衝撃にも乏しい。しかし、そのぶん、味わいの違うチョコレートをひと口ずつ食べていくような愉快な読書体験をたのしめる。

 ある作品はスウィートで、べつのある作品はほんのりビター。たったこれだけの枚数でも、作家の個性ははっきりと出ていて興味深い。

 たとえば高橋源一郎の作品は、ほっこりと胸があたたかくなるし、金原ひとみの物語は現代の一段面を鋭く切り取っていておもしろい。柳美里私小説風作品も悪くないし、阿川佐和子のとぼけた味わいも捨てがたい。

 いままで知らなかった作家の知らなかった作風を味わえることは、アンソロジーならではの魅力だ。

 そのなかでもひときわ印象深いものをひとつあげるなら、巻末を飾る北村薫の作品になるだろうか。原稿用紙にしてほんの4,5枚程度の話なのに、じつに形容しがたい読後感がのこる。

 あたりまえの日常の一場面を切り取っただけの話にもかかわらず、しんみりと胸に染み入る感動は本物だ。名匠、さすがの仕事である。ショートショートの短さでも、やはり匠の技はひかるものらしい。お見事。